vol.11 夕張郡栗山町(北海道)

里山が迫る田んぼの中にぽつねんと建つ一軒家

前回に続いて、北海道の食をご紹介したい。

 その店は夕張郡栗山町にある。栗山町とは、札幌の西方、約30キロ離れた町である。

ただ、ここで食べるためだけに訪れる。

 札幌から電車で1時間、車で1時間半かかる町で、しかも電車もバスも1時間に一本以下という不便な場所なので、札幌駅からバスで向かい、帰りは電車で帰るか、レンタカーを借りて出かけるしかない。しかも駅の近くではなく、里山が迫る田んぼの中にぽつねんと建つ一軒家である。

 店の名は「味道広路(あじどころ)」という。正直に言って、店名が野暮ったい。初めて訪れた時は、店名を聞いて不安になったほどである。

エントランスまでの導線。

 ところが、全国でも有数の、時の食材を生かした見事な日本料理を出す。先日も京都の有名割烹の料理人をお連れしたが、舌を巻かれていた。

 ご主人は、滋賀県八日市の名料亭「招福楼」の出身。東京上野にあった支店の料理長まで務められたが、地元に帰って割烹を始められた。

室内のしつらえ。

 なにより素晴らしいのは、京料理の技術を生かしながら、マネをせず、地元の食材と真摯に向き合って、いっさいケレン味がない料理を出し続けていることだろう。わざわざこの地まで多くの食通が訪れているところも、それが理由である。

 6月にいただいた5,000円のコースは以下の通りである。

すぐりメロン(間引きした小さいメロン)と甘草の花の煮。

「アンコウの煮こごり」「すぐりメロン(間引きした小さいメロン)と甘草の花の煮物」「原木椎茸とシジミの和え物」「凍り豆腐とウニの煮椀」「支笏湖のチップ(ヒメマス)と苫小牧のオヒョウのお造り」「クレソン、赤がれいと根曲がり竹と秋田蕗の煮物」「ジャガイモとツブ貝の和え物」「黒ソイの煮物の芹と茄子添え」「胡麻鯖すし」「じゅんさいのデザート」。

 どうです。地味でしょう。

黒ソイの煮物の芹と茄子添え。

 最近の割烹に出かけて出会う食材はウニと鯖くらいじゃないですか。しかし地味ながらも、しみじみと美味しい。

2016.07.07(木)
文・撮影=マッキー牧元