“怖い”って感情は、“分からない”から出てくるんです

今月のオススメ本
『恋するソマリア』高野秀行

国に恋する、という気持ちを初めて抱いたノンフィクション作家は再びソマリアへ旅立った。目標はソマリ社会の「素の姿」を見ること。伝統料理に舌鼓を打ち美白に夢中なガールズトークに耳を傾け、父の仇の娘を嫁にもらった男と出会い……。ラストは祝福の嵐!?
高野秀行 集英社 1,600円
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 今も内戦状態にあるアフリカ東端のソマリアは、大きく三つの国に分かれている。海賊国家「プントランド」、戦国「南部ソマリア」、そして――奇跡の平和国家「ソマリランド」。高野秀行は世界屈指の秘境へ単身潜入し、現地語を習得しながらの粘り強い対話の果てに、「奇跡」の内実を解き明かした。その顚末を綴った著書『謎の独立国家ソマリランド』は、2013年度ノンフィクション賞各賞を総なめに。だが……。

「ソマリ社会について書かれた本なんて、世界中探しても他にないんです。なのに、現地へ持って行っても誰も喜ばない。閉鎖的な氏族社会ですし、外部の人間に対しては冷たいんですよ。つれないんです。どうにかして彼らに認められたいという片思いの気持ちが募って……もう1冊書いちゃいました」

 前著はソマリ社会の歴史や政治を軸にした「男の話」だったが、最新刊『恋するソマリア』では「女の話」をクローズアップ。女性達が守る「家」の中に入り込み、台所事情や素の姿を描き出すことに成功している。

「こういった紛争地のルポって、取材する人間もたいてい男性ですし、戦争とかの話ばっかりじゃないですか。女性達が家族のために毎日どんなごはんを作っているかって話は、あたかも存在しないかのように扱われている。最近僕自身が家で主夫をやってることもあり、身に沁みて興味を惹かれるところだったんですよ。なんとかバリアをくぐり抜けてそこへ入っていったら……男性の世界とはまったく違う、ゆったりとしたあたたかい世界が広がっていた。まあ、南部ソマリアに行って、銃撃戦に巻き込まれたりもしたんですけどね(笑)」

 実際のところ、外務省のホームページでは「退避勧告」の表示が出ている国々なのだ。危険だから渡航しないでください、と日本政府はアナウンスしているが。

「あの国に関しては僕の方がよっぽど詳しいんで、大丈夫です(笑)。“怖い”っていう感情は、“分からない”から出てくるものなんですよ」

 日々のニュースで、世界は怖い、という感情が過剰に搔き立てられている。そんな今だからこそ本書を手に取り、気分をリフレッシュしたい。

「どこかに行ったりやったりしたことで、後悔したことってまずないんですよ。でも、行かなかったりやらなかったりしたことは、今でも後悔している。面白そうなことがあったら、首を突っ込んじゃえばいい。未知なる場所へ行くのは面白い! そのことが伝われば」

高野秀行 (たかのひでゆき)
1966年東京都生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部時代に書いた『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。講談社ノンフィクション賞など受賞歴多数。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2015.04.05(日)
文=吉田大助

CREA 2015年4月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

きれいな人がしてること

CREA 2015年4月号

パリ、東京、ハワイ、NYの“朝と夜”の習慣
きれいな人がしてること

定価780円