スタッフとキャストが本当に全身全霊を尽くした作品

左から、堤幸彦監督、貫地谷しほり、石田ゆり子、高良健吾、大竹しのぶ、天童荒太氏。

 天童荒太氏の第140回直木賞受賞作であり、70万部を超えるベストセラー小説を映画化した『悼む人』。その完成披露試写会が1月26日に丸の内TOEIで行われ、主演の高良健吾をはじめ、石田ゆり子、大竹しのぶ、貫地谷しほり、堤幸彦監督、そして原作者である天童荒太氏が舞台挨拶に立った。

 悼む人である主人公を演じた高良健吾は「役者生活10年目の作品で、いまやりたい表現をやらせてもらいました。多くの人に観ていただかないと、『悼む人』は存在しなくなってしまいます。一度でこの作品の伝えたい答えが見つからなくてもいい。時間が育ててくれる映画だと思っています。ぜひご覧ください」と挨拶。

 複雑な過去を持つヒロインに挑んだ石田ゆり子は「原作を数年前に読んだときに心をわしづかみにされてしまい、この役に立候補しました。普段はそういうことをするタイプではなく、大胆なことをしたなと思いますが、無鉄砲な自分をほめてあげたい。本当に素晴らしい映画です」と、熱い思いを語った。

原作者の天童荒太氏は、『悼む人』の主人公・坂築静人の日記という形をとった続篇にして序章『静人日記 悼む人II』も発表している。

 原作者の天童荒太氏は、『悼む人』を書いたきっかけについて、「遠く離れた土地の見ず知らずの人にも、愛し愛された人がいた。そういうことに思いを馳せることが、共に生きる、ということなのではないか。その意識を持つことが、平和の礎につながるんではないかという思いで、この作品を書き出しました。その後、9.11があり、3.11があり、今も悲しい事件が続いていますが、思うのは悼む人がいる世界であってほしいということです」と語り、「こういう映画が作られたこと、しかも日本で作られて世界に発信できることを誇りに思います」と映画への賛辞を送った。

 天童作品の映画化は2007年の『包帯クラブ』に続いて2作目。いずれも堤監督による映画化となるが、「これは僕の中では再デビュー作といってもいい作品です」というほど、堤のこの作品に対する意気込みは強かった。「全身全霊で頑張りました、とよく言いますが、スタッフ、キャスト、本当に全身全霊を尽くしましたし、編集では悩んで悩んで作りました。最後にひとりぼっちの試写会をしようとしたんですが、偶然天童先生にお会いして、ふたりぼっちの試写会になったのが嬉しかったです」。

 これを受けて天童氏も、「編集段階から含め、10回くらい観ていますが、その都度、涙が抑えられない。この映画はR15指定ですが、私自身、精神的なR15作品だと思っています。現実の割り切れなさや、愛や生きること、死ぬことに対し、丁寧に悩み、大人たちが魂を込めて作り上げた映画です」と、堤監督をはじめ映画人たちに感謝を表した。

2015.02.11(水)
文=石津文子