オヤジかるた 女子から贈る、飴と鞭。

瀧波ユカリ

「マウンティング女子」の名付け親としても話題の瀧波ユカリさんが、愛されオヤジになれる46のメソッドをかるた形式で綴った、「週刊文春」連載エッセイが単行本に! 女子が読めば「こんなおじさん、いるいる~」と笑えて、おじさんが読めば「モテの奥義」が身に付く……という本書から、3話をご紹介!

 お昼前にこれを読んでいるオヤジの皆様へ質問です! 今日の昼食は何にするつもりですか? 定食屋さんの生姜焼きセット。お蕎麦屋さんのカレーうどん。醤油ラーメン餃子付き。社食の唐揚げ定食……おっと、空腹感を高めてしまってごめんなさい。今回はランチにまつわるお話です。お腹が鳴らないようにご注意を。

 お昼時にビジネス街を歩くのが好きです。12時前後になると、そこかしこのビルからオヤジ様たちがひょこひょこと飛び出してきます。せかせかと一人早歩きするオヤジ様もいれば、5~6人でそぞろ歩く一団や、妙に親しげなオヤジ様コンビなど組み合わせは多種多様。若いのを引き連れて先頭を切るオヤジ様はさすがに貫禄があります。どのグループも皆一様に高揚し、いざ行かんという気迫に溢れていて、さながら戦のよう。同じ作業着の一個小隊が店の前に止まり、ひとりがひょいと入ってはすぐに「ダメでした」と出てくる。そうしてまた皆でぶらりぶらりと歩き出す。全員の首に下がっている社員証がビル風にあおられて高々とはためく様は、合戦場を彩るのぼり旗にも似てあはれなり。そんな彼らを尻目に行列に並ぶ寡黙な一匹オヤジ様は、いつかは必ずありつけるという確信に瞳を鈍く光らせています。私は一匹オヤジ様に話しかけます。「このお店、けっこう並んでるけど人気なんですか?」見知らぬ女性からいきなり話しかけられたにもかかわらず、この時オヤジ様少しも騒がず。朴訥とした話しぶりで、人気メニューとおおよその待ち時間を教えてくれます。その様子からは、下心や虚栄心などはかけらも感じられません。通りすがりの雑兵に山越えの方法を指南する野武士の如く、落ち着いていて穏やかで、隣人への思いやりに溢れているのです。

 そしてオヤジ様たちは皆それぞれ行くべきところに行き着いて、獲物を黙々と平らげます。嬉しいともおいしいとも言わないし、顔は至って無表情。だけど、安堵と充足は必ずや横溢します。それは食後の珈琲を飲み干した時のため息だったり、お会計をする時にちょっといい声で発する「ごちそうさん」だったり、ドアを開けながら口ずさむ鼻歌だったり。ほら、耳を澄ませて。12時45分のビル街は、小さな勝ち鬨に満ちている。

 ああ、どうしてランチタイムのオヤジ様ってこんなに愛らしいのでしょう。どうか、いついつまでもその愛らしさをもってしてランチを楽しんでください。しかしオヤジ様って、つくづく「昼と夜は別の顔」な生き物なんだなあと思っちゃいます。昼の姿が「野武士のランチ」なら、夜はさしずめ「殿の乱痴気」。……オヤジの皆様、できることなら夜になっても兜の緒は締め続けていてくださいね!

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瀧波ユカリ 近況

4歳の娘を連れて歩いていると、たまに通りすがりのオヤジ様が私に気付かれない角度からそっと娘に笑いかけたり手を振ったりすることがあります。当然私は気付いているし、そのおちゃめぶりを楽しんですらいますが、それがオヤジ様に伝わると恥ずかしがって妖精のように消えてしまうかもしれないので、気付かないふりに徹しています。オヤジ様たちよ、ちゃめっけをありがとう。娘が年頃になるまでの、ささやかなお楽しみです。

プロフィール

1980年北海道札幌市生まれ。漫画家。日本大学藝術学部写真学科卒業。2004年『臨死!! 江古田ちゃん』でアフタヌーン四季賞大賞を受賞しデビュー。著書に漫画『臨死!! 江古田ちゃん 』(講談社)、エッセイ『はるまき日記』(文春文庫)、 『女もたけなわ』(幻冬舎文庫)、『オヤジかるた 女子から贈る、飴と鞭。』(文藝春秋)、『あさはかな夢みし』(講談社)など。

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