#4 ラハイナ

大空が、海と大地とともにドラマチックな光と陰、色合いを見せる瞬間。

 日が昇り、日が沈むこと、物事には始まりがあり、終わりがあることを大切にしたハワイの人々は、ラハイナのサンセットを一日の終わりとして、古来から大切に眺め続けてきたに違いない。どうにも美しいため、毎日見ていても、つい見とれてしまう。しかも、ラハイナで見るサンセットには意味がある。

 ハワイに西欧文化がやってくる前の時代、神々や高貴な王家の存在が身近だったころのこと。ラハイナはマウイの王たちに愛された場所の一つだった。ハワイの精神文化が激変したのは、カメハメハ王の死後、西欧文化の影響によって時代が大きく変わり、1819年についにカプが廃止されたとき。カプという厳格な社会制度によって守られていた伝統的な精神性、価値観が変化し、ハワイは歴史の荒波に飲まれてしまうのだ。

 ラハイナは、カメハメハ王が王国の都を置いた場所。その後、カメハメハ3世がホノルルに遷都を行うまでの間、王家の人々の住居や政治の機構があったのだ。カメハメハ王の正妻であるケオープラーニ女王や、息子のカメハメハ2世、3世、娘のナーヒエナエナ王女は、モクヒニアと呼ばれる大きな池に囲まれたモクウラという島に暮らした。その後、モクヒニアは埋め立てられてしまったが、その後の文化復興運動により開発が止まったため、現在は復元作業中。しかし、そこに立てば、何かを、ラハイナがなぜ神々や王たちに愛されたかが、わかるような気がする。

 モクウラの目の前の海にはラナイ島を望み、背後にはマウイ島の偉大なる王、ホノアピイラニの谷が山並みを刻む。サンセットの時間には全てが金色に染まる。モクウラを囲んでいたモクヒニアの池には、キハワヒネと呼ばれるトカゲの女神が住んでいた。キハワヒネは姿を変えて、池に出入りするのだが、この女神が池にいるときはその周囲の草が黄色に変わったとか。黄金色に染まる夕暮れは、ラハイナの町のなか、キハワヒネの存在をふと感じてしまう瞬間だ。


【Access & Advice】
カフルイ空港からラハイナまで、海沿いのホノアピイラニ・ハイウェイを走り、車で約40分。ラハイナでは港にある旧裁判所が博物館となっているので、ラハイナの歴史を知るのに最適。港はクジラのやってくる12~3月の間はホエール・ウォッチングのツアーで賑わう。博物館でラハイナ・ヒストリカル・トレイルのマップをもらうと、フロント・ストリートでの買い物や食事の合間に町中の隠れたスポットを探せるので、町歩きの充実度が高まる。

神宮寺愛(じんぐうじ あい)
ライター・コーディネーター・翻訳(英語・ハワイ語)・フラダンサー。出版社勤務後、フリーランスになり、日本文化とハワイ文化に親しむべく、学びの日々を続けてマウイ島在住14年目。13歳の娘とイタリア系アメリカ人のパートナーとの三人暮らし。雑誌への寄稿多数、著書『心と体がピュアになるハワイアンな暮らし』(青春出版社)など。

2014.08.21(木)
文・撮影=神宮寺愛