この記事の連載

NARRATIVEという言葉から、新しい世界を見つけて

――戯曲などは、演じられた舞台を文字として反芻できる読み物ですが、『ホントのコイズミさん』のように、ポッドキャストが書籍化されることは画期的です。

 本をテーマにした番組だったので「本にするしかないでしょ!」という感じは最初からありましたから。番組の企画が決まったときに、私は「これはすごくいい話が聞けるんだろうな」という予感があって。きっと、その対話から生まれるものは誰かの心を少しラクにしてくれるんじゃないかと思いました。

 本を読むのが得意な人も苦手な人もいるし、音を聞くのが得意な人も苦手な人もいます。せっかくだから、みんなの元に届く可能性を広げたいなという感じでしたね。

――最初にも少し出ましたが、今回のテーマはNARRATIVE。このテーマに決められた理由は何でしょうか?

 NARRATIVEの前に、YOUTH、WANDERINGというテーマの2冊が出版されています。本当にたくさんのキーワードを編集の方と吟味していき、最初は日本語のキーワードも候補に挙がっていたんです。でも、日本語だと意味が限定されてしまう感じがするから、もう少し広い意味に捉えられる言葉がいいねということで、YOUTH、WANDERING、NARRATIVEになりました。

 実は私、NARRATIVEという言葉を詳しくは知らなかったんです。あまりなじみのない言葉ですよね。でも、検索して“語り手となる話者自身が紡ぐ物語”と知って、「素敵じゃん!」って。

――今回、NARRATIVEをテーマにセレクトされた5名の方とのトークを経て、小泉さんご自身の中で「NARRATIVEってこういう感じ!」と辿り着かれたところはありますか?

 NARRATIVEと比較されるものにSTORYがありますが、STORYというのは物語の内容や筋書きを指します。けれども、NARRATIVEというのは、変化し続けるけれども完結はしないんです。

 今回この本に登場していただいた方々は、「結論に至らなくていい」という、そんなムードがある方ばかりです。私の人生そのものもいつも結論なんて出てないですし、生きている限り過程でしかありませんから。

 ゲストに来てくださった宮藤さんのドラマも同じだなと思います。いつもすごく楽しく見ているのですが、結論を押し付けられる気分になったことが一度もないんです。『あまちゃん』にも出演させていただきましたが、あの最終回も“結論”には辿り着かないんですよね。女の子二人がトンネルに向かって走っている後ろ姿で終わる素敵なラストシーンでしたが、それがまさにNARRATIVEで。でも、宮藤さんのドラマは、無責任に観客に委ねられているわけでもない。NARRATIVEもそういう感じかな。

――ポッドキャストを聞いて、さらに書籍を手に取って読むと、読者は“自分なりのNARRATIVE”を考えるきっかけになりそうです。

 新しい言葉をひとつ知ると、少し世界が広がるんですよね。NARRATIVEという言葉を覚えたら、それが聞こえてくるし、見えてくる。その時々で、宮藤さんや哲学者の永井(玲衣)さんたちの言った言葉を思い出す……、この本を読んだことで、そんな繋がりができたらいいなって思います。

2024.03.13(水)
文=前田美保
撮影=深野未季
スタイリスト=藤谷のりこ
ヘアメイク=石田あゆみ