「実はこの部屋、仕掛けがありましてね」

 1階を一通り見て回りましたが、どこも綺麗に整備されていて「ここでもいいかも」なんて思いもよぎったそうです。しかし、「では、2階に参りますか」という青年の言葉にハッと我に帰り、前の住人がこの上で亡くなっていることを思い出しました。

 寝室、書斎……いくつか部屋を案内されましたが、やはりどこにも高木さんが思っていた事故物件の雰囲気は微塵もありませんでした。

「こちらが和室となっています」

 青年が襖をスッ……と開けた瞬間、「ああ、ここだ」と直感で思ったそうです。

 どの部屋で自殺したかは聞いていませんでしたし、もちろん高木さんに霊感などありません。それでも、ここだという確信がありました。

 一見するとなんてことはない6畳ほどのシンプルな和室。自分でもなぜここだと思ったのか高木さんが説明できずに戸惑っていると、その様子に気がついたのか「あの、もしかして何か感じられたりします……?」と青年が小声で言ってきました。

「いや、そういうのはないんですけど。え、じゃあやっぱりここがそうなのですか?」

「……はい。でも、なんでわかったんですか?」

「まあ、なんとなくなんですけど……」

「なんとなく……」

 気まずい沈黙。それを破るように不動産屋の青年は明るい表情で言いました。

「実はこの部屋、仕掛けがありましてね。ここを、こうやって棒で引っ掛けると……」

2024.02.03(土)
文=むくろ幽介