この記事の連載

台北の映画街「西門町」

 多くの作品が台北市内を舞台にしているエドワード・ヤンに対し、盟友ホウ・シャオシェンの映画の多くは、田舎や地方都市で撮られている。この違いは、それぞれの出自によるものかもしれない。ホウ・シャオシェンの映画のロケ地として有名なのは、『悲情城市』(89)の舞台であり、今や観光名所にもなっている九份や基隆。子供たちが祖父の家で過ごす夏休みを描いた『冬冬の夏休み』(84)の舞台は銅鑼。

 ホウ・シャオシェン自身の幼年期をモデルにした『童年往時』(95)では、監督が少年時代を過ごした高雄市の鳳山が舞台となっている。一方少年少女の切ない恋を描いた『恋恋風塵』(87)は九份を舞台にした映画ではあるが、この山村で育った少年ワンと、幼馴染の少女ホンがやがてそれぞれに台北へ上京し、都会暮らしをする様子がたっぷりと描かれている。

 『恋恋風塵』の台北でのロケ地の一つが、西門町にある「西門紅楼」。もともと官営市場として栄えた煉瓦造りのこの建物は、一時期「紅樓劇場」という映画館として使用されていて、劇中では、裏側部分がホンの働く仕立て屋として使用された。現在は建物内は全面的にリニューアルされ、雑貨屋などが入る文化施設として使用されている。

 この西門町付近は、ガイドブックなどでは「台北の原宿」と呼ばれるほど、若者向けの店が立ち並ぶ繁華街だが、昔は映画館街として栄えた場所で、今でも、大型の映画館が立ち並んでいる。60年代末から70年代初頭の台北を描いた『恋恋風塵』では、ワンの友人が勤める映画館が登場するので、もしかしてここも西門町あたりが舞台だろうか、と調べてみたら、どうやらロケ地に使われたのは大同区のあたりのようだ。

2023.11.27(月)
文・写真=月永理絵