ポジャギと呼ばれる美しい布を生活に取り入れてきた韓国の人々の暮らし。

 伝統的な手仕事を現代のライフスタイルに合わせて表現する作家、キム・ヨンランさんのアトリエを訪れました。


ナチュラルなリネンを使ったカリゲ作家の工房へ

 韓国では布を巧みに使う文化があり、「ポジャギ」と呼ばれる布を繋げたパッチワークは、風呂敷のように“包むため”に、用いられてきた。使い方によって名前が変わり、衣服を包むのは「オッポ」、間仕切りや隠すために用いるのが「カリゲ」など、用途は幅広い。

 そんな美しい布を取り入れた韓国の暮らしのシーンに触れるため、カリゲ作家のキム・ヨンランさんのアトリエに伺った。窓辺にはナチュラルな色のカリゲが一枚はらりと飾られている。

「朝の光、夕陽など、日差しによって表情が変わり、絵を楽しむように日々眺めています」

 とキムさん。彼女は趣味で始めたカリゲ作りが高じて作品を制作し、作家として10年ほどが経つ。

手軽に使ってもらうために素材を変え、コストも抑えた

「最初はカリゲの伝統的な手法に倣ってすべて手縫い、素材もシルクなどを用いていました。そうなると制作時間がかかるし値段も高くなってしまう。日常的に使ってほしかったので、買いやすい値段にしようとミシンに切り替えました。素材は東大門市場で仕入れたリネンに変更。ナチュラルな風合いが現代の暮らしに合うと思い、自分のなかでしっくりきました」

 カリゲの完成までの流れは、リネンを何枚か選んでから、デザインを考え、布をカットしてパーツを作り、ミシンで縫い合わせていく。

「以前までは繋ぎ目をピシッとまっすぐに揃えることが大事だと思っていましたが、今ではこだわらず自然な手の動きに任せています。ラフなラインがいい味わいになっている気がして。表の縫い目はフラットにし、裏は布を重ねるなどして、両面を使えるようにしています」

 “スサンハンチェボントゥル”(怪しいミシン)というブランド名で活動しているキムさん。オーダーメイドが中心で、ショップにも不定期ではあるが一部卸している。

「その一つが、器店の木蓮商店さんです。わたしが駆け出しのころ、フリーマーケットで販売しているときに店主の方に出会い、“うちの器と合うので扱わせてほしい”と言ってくださり、お付き合いが始まりました。そういった、さまざまな縁のおかげでここまで来たと思います」

 カリゲ以外にもティーマット、コースターといった小物も制作。取材中に「ひと息つきませんか?」と淹れてくださったお茶の器にはお手製のコースターが敷かれており、これもまた素敵。試作品をお茶タイムに実際に使い、サイズ、色合いを考えるのだという。

 また、アトリエ兼自宅のリビングを見渡すと、日がたっぷり注ぐ窓辺や部屋に続く扉の前にはカリゲがセンスよく吊るされている。薄いリネンなので透け感があり、室内の空気の動きで、微かに揺らめく様子にも趣がある。

「小さめのカリゲを一枚吊るすだけで、インテリアの雰囲気が変わります。“隠す”役割もあるので、ドアの前に吊るして煩雑な部屋の中が見えないようにしたりも(笑)。自分が作ったカリゲをお客さんがどう使っているのか見てみたいんですよね」

 もともと、カリゲを含めたポジャギは、福が訪れるようにという祈りを込めて、一枚一枚布を繋ぎ作られていた。窓辺に飾るだけで福を呼びそうなカリゲ。暮らしを彩る一枚を、ソウルで探しに出かけたい。

2023.05.15(月)
Photographs=Wataru Sato

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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