コンサルティング会社は通常、クライアント企業に対してコンサルテーションを行い、対価として報酬を受け取る。しかし不景気の折、多くの企業はコスト削減にいそしみ、人月単価の高額なコンサルティング会社を予算削減の仕分けのターゲットとしていた。

 多くの既存契約が突如として打ち切りとなり、コンサルティングファーム各社は新規案件の獲得に苦労する。残された数少ない生命線となる案件は、実力と経験を兼ね備えた精鋭社員たちが担い、数ヶ月前まで学生であった大量採用枠の新入社員が活躍する余地は、急速に失われていたのである。

 実はコンサルタント業界において、配属先がないために待機せよ、と暗黙に言われているアベイラブルとは、ある種の“戦力外通告”に相当するとされていた。

 新入社員以外でアベイラブルとなる社員の多くは、直前のプロジェクトにおいて何らかの“訳あり”社員だ。当該社員は特定のプロジェクトに配属されることなく、日々本社の研修会場の一室に出社しタイムカードを押し、自己研鑽という名目でWeb研修に励むように人事から指示を受ける。

 毎日ただ決まった場所、決まった時間に出社し、役立つかどうかもわからない新たなWeb研修を検索して受講する。隣には明らかに覇気を失った中年社員が研修コンテンツとは異なる動画を見て時間をつぶしていれば、奥には光を失った目で転職サイトをスクロールする別の社員がいる。彼らはもしかすると近い将来の自分の姿なのではないか……そんな不安を抱えながら毎日を過ごしていたのだ。

 もはや、働けるのであればどんな仕事でもよかった。社会から、組織から必要とされたかった。はじめて振り込まれた月給は、貧乏学生だった自分にはあまりにも高額で、それに報いるためにとにかく働きたかった。

 同期が、一人また一人とプロジェクトへの配属が決まっていく中、アベイラブル部屋にとり残された自分自身がたまらなく惨めに思えた。明確な処遇の差についての説明は与えられず、様々な不安が頭の中をめぐった。

2023.04.20(木)