そして、カーラ・ブルーニ似の年上美女は……

伊藤 そして、言葉を探すように後頭部をポリポリと人差し指で掻いてから、ゆっくりと切り出します。「彼女は僕の通う大学の大学院生で、4つばかり僕よりも年上でした。哲学科の教授と不倫しているらしいという、嫉みを教科書にしたような噂も立っていましたが、僕は信じませんでした。だって彼女は毎日決まった時間に同じ車両に乗り、きまって僕の前、または斜め前に立ちました。そして、週に一度くらいは笑顔を見せてくれました」。青年の唇は震えていた。黒い瞳はさっきよりも濡れているようにもみえる。自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をしてからまた口を開いた。「先週の月曜日、いつもの時間、いつもの車両で彼女を見ました。横には彼女よりもちょっと年上のスーツをきた男が立っていて、彼女は男に少しもたれかかるようにして、その腕に手を絡ませていました。その男は大学の教授ではありませんでしたが、僕にとってそれはどうでもよかった。ただ、ひとつ確信が持てたことは、その男では彼女を幸せには出来ないってことだ。ニヤけたその口元は汚らしく、スーツで嘘という嘘を隠している。どうしてそんな男が彼女を幸せに出来るでしょうか?」。そう言うと、青年は勇気を奮い立たせたように顔を上げた。その瞳には“怒り”のようなモノがあり、最後に絞り出すように「僕だったら……彼女を」。そして俯き、力なくその場に座り込んで話を終えます。

山口 短編映画のようだ。

伊藤 この青年の心と言葉の中には、いつでも毅然として正しい彼がいて、全てが彼の思いどおりになるんです。でも現実の世界では、青年以外のものが幅を利かせていて、彼は弱々しく“恋”という一連の長い試練もくぐり抜けることはできない。こんな世界がみえてしまって……でも、もしこれをMVにしたら、とてつもなく暗くなりそうですね(笑)。

山口 それですね。Promotion Videoとも呼ぶMusic Videoは、楽曲の世界を伝えるだけでなく、アーティストも含めた宣伝ツールとして使いますから、その内容は辛いですね。でも、“伊藤涼妄想バージョン”のMusic Videoも観てみたいです。大ヒットしたらアルバム特典用につくってもらいましょうよ(笑)。

伊藤 良いですね。でも、かなりヒットしないと元が取れない特典(笑)。

ヒロイズムは音楽界の野茂英雄になれる!

山口 ところで、ヒロイズムは本気で米国進出を考えているようですね?

伊藤 米国進出ってよりは、彼の夢がそこにあるって感じですよね。僕も彼を応援することで、その夢に乗っかりたいと思っています!!!

山口 留学経験があって、英語も堪能なのだから、あなたも可能性あるでしょう。

伊藤 僕は実力至上主義のアメリカを良く知っていますし、あちらの土俵で戦う気はさらさらないので、伊藤涼なりの勝負の仕方を模索しています。僕のことはさておき、ヒロイズムのように「I have a dream」と堂々と言えるフロンティア・スピリッツは応援していきたいと思っています!

山口 LAと往復しながら、現地在住の作曲家達との信頼関係をつくって、Co-Writing(共作)していくという方法は、とても実現可能性が高いと思っています。野球に喩えるなら、ヒロイズムは野茂英雄になると予言したいです。坂本九の「上を向いて歩こう」が「SUKIYAKI」と言う曲名でビルボード1位になったのは1963年。日本の音楽史にとっては、村上雅則投手か、沢村栄治投手のような話になっています。野球同様に日本の音楽も世界視野で捉えてもレベルも高く、独自性もあるので、ヒロイズムがパイオニアとして、切り拓いてくれれば、野茂に続いて、イチローも松井秀喜も、そしてダルビッシュも活躍したように、日本の音楽家が米国音楽シーンでどんどん活躍するようになると思います。本当に期待しています。

Honey L Days「涙のように好きと言えたら」
エイベックス・エンタテインメント 12月11日発売
TYPE-A\1890(シングル+DVD〈Music Video & MVメイキング映像〉)、TYPE-B¥1890(シングル+DVD〈ドキュメンタリー映像〉)、TYPE-C¥1260(シングル)
■Honey L Daysは、KYOHEIとMITSUAKIによるヴォーカルユニット。2008年にメジャーデビューを果たす。2年ぶり8枚目のシングルとなる今作は、MBS・TBS系深夜ドラマ「彼岸島」の主題歌に起用されている。
■「涙のように好きと言えたら」作詞・作曲/KYOHEI、ヒロイズム 編曲/ヒロイズム、KYOHEI
■オフィシャルサイトURL avex.jp/hld/index.php

【動画サイト】
「涙のように好きと言えたら」

URL www.youtube.com/watch?v=bOXg8LpCPpk

山口哲一 (やまぐち のりかず)
音楽プロデューサー、コンテンツビジネス・エバンジェリスト。(株)バグ・コーポレーション代表取締役、「デジタルコンテンツ白書」(経産省監修)編集委員。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げて、音楽とITに関する実践的な研究を行っている。著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)、『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』『プロ直伝! 職業作曲家への道』(リットーミュージック)がある。最新刊は『世界を変える80年代生まれの起業家 ~起業という選択~』(スペースシャワーネットワーク)。詳細プロフィールはこちら
Twitter@yamabug twitter.com/yamabug
ブログ「いまだタイトル決めれず」 yamabug.blogspot.jp
作曲家育成セミナー「山口ゼミ」 www.tcpl.jp/openschool/yamaguchi.html
WEDGE Infinity連載「ビジネスパーソンのためのエンタメ業界入門」 wedge.ismedia.jp/category/entertainment

伊藤涼 (いとう りょう)
音楽プロデューサー、ソングライター。ジャニーズ・エンタテイメントで『青春アミーゴ』などのミリオンセラーをプロデュース、後にフリーランスに。ソングライターとして、乃木坂46『走れ!Bicycle』、AKB48『ここにいたこと』などの作品がある。作詞アナリスト、フードミュージックプロデューサーとしても活躍。論理的で明晰な分析力に注目。
マゴノダイマデ・プロダクション www.mago-dai.com
ブログ「伊藤涼の音楽」 ameblo.jp/magodai
伊藤涼が主宰する作詞研究室リリック・ラボ www.mago-dai.com/?p=398

Column

来月、流行るJポップ チャート不毛時代のヒット曲羅針盤

音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

2013.11.27(水)