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 コウノトリが運ばない命を、たぐり寄せる職業だ――。自らの手で精子と卵子を導く胚培養士。そんな不妊治療の現場で働くスペシャリストたちを描いた、漫画『胚培養士ミズイロ』の第1巻が1月30日発売されます(※書店により発売日は前後します)。

「青年誌に不妊治療をテーマにした作品が」と連載開始から話題となった本作に挑むのは、『サプリ』『&』などで知られるおかざき真里さん。不妊治療の末に授からなかった現実をどう描くか? 日本の性教育はどこが問題なのか? 医療監修を務める男性不妊治療のトップランナー・リプロダクションクリニックの石川智基医師と、不妊治療の“現在”を語り合います。(インタビュー【前篇】を読む)

どんな結果でも、「納得」できているかどうか

おかざき 不妊治療の技術の進展は目まぐるしいですが、一方で、どんなに夫婦で治療を重ねても、結果が伴わないケースもあります。漫画では、そうした女性の心情も描かせてもらいました。

 結婚適齢期の男女って、本当に大変ですよね。結婚していなかったら「結婚しないの?」と言われ、子どもがいなかったら「産まないの?」と言われ、一人産んだら「二人目は?」と言われてしまう。でも、人にはそれぞれの生き方があって、たとえ望んだ結果にならなくても、本人がどこで納得するかどうかだと思うんですね。

 ずっと治療を続ける方のなかには、「ここまでやり切ったから、授からなくてもあとは納得できる」という思いで続けている方も多いと思うんです。不妊治療は、納得がすべてなのかな。そこへひたすら、ドクターも胚培養士も併走してくれると。

石川 はい。そのために医師や胚培養士だけでなく、看護師も受付も事務スタッフもチーム一丸となって、患者さんをサポートしています。

おかざき 一般的には、そんな「納得できる一言」を主人公が言うことが美しい漫画なんでしょうけど、主人公の胚培養士は占い師ではないし、ましてや、医師免許をもっていないので、診断的なことも言えません。なかなかその加減が難しくて、私と編集者とで、「え、そのセリフはちょっとどうかな」など、主人公の水沢歩の立場で患者さんにどういった声をかけるか、毎回、悩むんです。

2023.01.30(月)
文=内田朋子