香港に通い詰めるようになって四半世紀以上。レストランのプロデュースも手がける美食家のカメラマン菊地和男さんは香港で何を食べているのか? 今回は菊地さんの定番料理と言えるメニューのベスト10を挙げてもらった。庶民の味から高級料理まで、ありきたりのガイドブックとは違う、奥深い香港の食の世界にご案内します。

鮮牛油菠蘿飽(美都餐室)

 香港には、茶餐廳なる存在がある。いわば日本の喫茶店と大衆食堂を合わせたような店で、朝から晩まで気軽に食事ができるのが特徴だ。

 メニューは何でもアリ! という感じ。洋風(といっても香港風)のものから、中国風(これも正統とはチト違う)のもの、そこに“出前一丁”のような日本のインスタントラーメンまで並んでいるのだから……。中国とイギリス、その他の国の多様な文化の影響を受けた香港の茶餐廳は独自の文化を築いており、その中で茶餐廳としてのメニューを進化させてきたのだ。

 茶餐廳ならではのメニューはいろいろあるが、そのひとつが「パイナップルパン」である。これは、パン生地の上にビスケット生地をのせて焼いたもので、日本でいえばメロンパンのようなものだろう。とはいえ、見かけも味も、メロンパンとは相当異なる。そして食べ方もまったく違うのだ。

 日本のメロンパンは、菓子パンにカテゴライズされ、そのまま甘い味を楽しむのが普通だ。しかし、香港の茶餐廳では、バターをはさんで食べるのがデフォルトのようだ。バターを塗るとか付けるのではないのがミソ。バターはまるでパイナップルパン・サンドの具として存在している。そしてオプションでは、ここにハムをはさむのだ。

 うす甘いパンにバターやハムの塩気。これを、エバミルク入りの紅茶とコーヒーを合わせた鴛鴦茶と一緒においしそうにほおばっている。これはおやつなのか?  軽食なのか??  昼食なのか???  理解しがたい食習慣だが、香港人は老若男女、なぜかこれが大好きなのだ。

美都餐室
所在地 油麻地廟街63号地下

菊地和男
1950年東京生まれ。日本広告写真家協会会員。世界各国の食と文化をテーマに撮影・執筆を行うほかレストランのプロデュースにも関わる。1969年以来、香港には度々渡航。著書に『 香港うまっ!食大全』(新潮社)、『中国茶入門』(講談社)、『茶人と巡る台湾の旅』(河出書房新社)、『ダライ・ラマの般若心経』(共著/ジェネオン エンタテインメント)など多数。

2013.11.12(火)