都市の俯瞰から、建物の内側へ。迫力ある展示が続く

重要文化財 「群仙図襖」 狩野永徳筆 安土桃山時代・天正14年(1586) 南禅寺蔵
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重要文化財 「賢聖障子絵」(部分) 狩野孝信筆 江戸時代・慶長19年(1614) 仁和寺蔵 (会期中10面ずつ展示替え)
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 続いて都市を俯瞰していた視点は、ぐっと建物の内側に入り込む。「洛中洛外図」に古い権威の象徴として描かれる御所、対して徳川幕府による新秩序の象徴である二条城、そして古刹・龍安寺という、3つの建物の室内を飾った障壁画を紹介するのが、次のセクションだ。ここでもアプローチには、知名度の高い(しかし実態は意外と知られていない)龍安寺石庭の四季を、ほぼ実寸大の幅16メートルというスクリーンに超高精細映像で投影。観客は『不思議の国のアリス』のウサギ穴のような通路を通って、架空の世界へと誘われる仕掛けだ。

「列子図襖」 江戸時代・17世紀 メトロポリタン美術館蔵 (C) The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY
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「群仙図襖」 江戸時代・17世紀 龍安寺蔵
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 龍安寺方丈の障壁画については、NYから里帰りした《列子図襖》と、国内に残った作品の久しぶりの邂逅、というニュースがあるし、御所の襖絵は現存最古、狩野永徳の筆になる《群仙図襖》が出展されるなど、このセクションも見どころには事欠かない。だがやはり二条城二の丸御殿大広間四の間を飾る狩野探幽《松鷹図》の、鷹が人間たちを睥睨する15面、15代将軍徳川慶喜が大政奉還を近臣に諮ったとされる二の丸御殿黒書院一の間、二の間を飾る狩野尚信の障壁画69面、合計84面を、実際の二条城と同様の空間スケールで再現した展示室の迫力を、個人的には第一に推したい。

重要文化財 二条城 二の丸御殿 大広間 四の間障壁画(西側)「松鷹図」 狩野探幽筆  江戸時代・寛永3年(1626) 京都市(元離宮二条城事務所)蔵(撮影:福永一夫)
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重要文化財 二条城 二の丸御殿 黒書院 二の間障壁画(東側) 「 桜花雉子図」 狩野尚信筆 江戸時代・寛永3年(1626) 京都市(元離宮二条城事務所)蔵
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 美術ファンには当然楽しいけれど、日本美術に興味のなかった人にも十二分に楽しんでもらえそうな、従来の「鑑賞」とはひと味違う、「体験型」の展覧会。3Dプロジェクションマッピングのイベントや、舟木本を詳細に解説するiPhoneアプリなども含めて、随所に見える新しい試みが、美術展の可能性を示唆している。

特別展「京都 洛中洛外図と障壁画の美」
URL www.ntv.co.jp/kyoto2013/index.html
会場 東京国立博物館
会期 2013年10月8日(火)~12月1日(日)
休館日 月曜日 ※ただし11月4日(月・休)は開館、11月5日(火)は休館。
入館料 一般1500円ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)

橋本麻里

橋本麻里 (はしもと まり)
日本美術を主な領域とするライター、エディター。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。近著に幻冬舎新書『日本の国宝100』。共著に『恋する春画』(とんぼの本、新潮社)。

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2013.10.26(土)