この記事の連載

 男子に相手にされず、いつも引き立て役だった“残念な女子”が、大学で入部した古墳研究会でイケメン2人に挟まれて……。古墳が点在する関西地方、自然と歴史が豊かで、どこかのんびりしたキャンパスライフを繊細な筆致で描き、「an・anマンガ大賞」大賞など数々の賞を受賞した浜谷みおさんの人気作「やまとは恋のまほろば」。

 2年の休載期間を経て、本格的に再始動した作品への思い、そして少女漫画に対する思いを浜谷さんに語っていただきました。

きっかけは近所の“古墳”

――この作品は、最初に読み切りとしてお描きになったそうですが、きっかけとなったアイディアはどんなことだったのでしょう。

 もともと少女漫画を描きたくて、デビューした雑誌も少女漫画でした。大阪の住んでいるところの近くに古墳があるのですが、ネタに詰まると散策に行ったりして、古墳を漫画に取り込めないかなとその頃から考えていたんです。

 デビュー後、読み切りを何作か描き、子どもが生まれたりもして、しばらく漫画を描かない時期があったのですが、やっぱりまた何か描きたいと思ったとき、古墳のアイディアを思い出したのです。

寝る前に読んで安眠できるような話にしたかった

――その後、連載するにあたって、そのアイディアをどのように膨らませていったのですか?

 読み切り版は、可児江先輩の印象がもっと薄かったんですけど、しっかり絡ませたらどうなるか分からないなと思ったのは覚えています。やっぱり少女漫画を描きたい思いがすごくあって、寝る前に読んで安眠できるような話にしたかったんです。

――主人公の三和穂乃香は自己肯定感が低く、ルックスも含め少女漫画の主人公としては変化球的なところがあると思います。

 何かしらのコンプレックスは、誰でも持っていると思うのですが、それを表現するうえでせっかく古墳を出すのだから、造形的にリンクするものがあったらいいなと思って、古墳みたいな体型をイメージしました。

 今まで描いた漫画でも、ビジュアル的に映える主人公で、ドラマチックな展開にするようにと課題を出されていたのですが、全然うまくいかず、それも筆を折ってしまった原因のひとつだったんです。

 あのとき言われたキャラクターとは、やっぱり真逆になっちゃいましたけど、穂乃香は初めて描くタイプかもしれません。

異なるタイプのイケメン・飯田くんと可児江先輩

――飯田くんと可児江先輩のキャラクターは、どんなふうに考えたのでしょう。

 自分がどういうタイプの男子を描けるのかもよくわからなかったので、編集さんに今どきの男子の写真をいっぱい送ってもらって(笑)。ビジュアルは結構迷いました。

担当編集:「自分はどっち派」みたいに読者さんが盛り上がってくれるんじゃないかなという狙いもあって、全然違うタイプにしてみようという話をしましたよね。

 当初、LINEマンガで連載を始めたのですが、コメントなどですぐに反応をもらえるじゃないですか。それもあって盛り上がるような仕掛けを作りたかったんです。3人の関係性については、タイトルに「まほろば」という言葉も入っているので、穂乃香にとって居心地のいい場所をひとつ作ろうと思いました。

――1巻は、古墳研究会の部室でのやり取りや、突然始まる家飲みなど、恋の前段階といえるような胸キュンポイントが散りばめられています。

 大学生の青春感も出したかったんです。いろんなエピソードを重ねて心情が変わっていくような描き方をしたいとは思っていて、学生生活の楽しさを盛り込みつつ、それを経験したことによってどうなるのか、丁寧に描けたらいいなと思っています。

――その点、2巻は花火大会や古研の合宿など夏休みのウキウキ感が詰まっていますよね。恋愛の矢印がいろんな方向に混じり合って、動きのある巻になっています。

 私自身も主人公と一緒に、学生生活に慣れていったイメージがあるんです。だから最初は古墳の話題も控えめにして、夏休みの合宿辺りで私の知識も少しずつ追いついて、ようやくしっかり描けるようになった感じです。可児江先輩みたいに古墳に詳しい人が主役だったら、私も読者さんも戸惑っていたと思います(笑)。

――穂乃香の心情の変化を描くうえでは、どんなことを意識していますか。人を好きになる気持ちをなかなか認めようとしないところから、徐々に素直になっていく姿が印象的です。

 穂乃香は今まで恋愛経験のない子なので、どういう速度でどういうことがあると、自分の心情に気づくのか、かなり悩みながら描いています。ネガティブなところを持っているキャラクターですけど、根底には楽観的な部分もあるんじゃないかなと思っていて、突飛な感情の動きにならないよう自然な流れを意識しています。

2022.10.14(金)
文=兵藤育子