それで個体数が増えてもタヌキは高密度で生きていける。しかし、結末は見えている。生態系と切り離された過剰な食べものは、野生生物の生理と社会構造を蝕み、病気の蔓延、農作物被害、行政による捕殺などに繫がる。

 私がストーキングしていた千葉のタヌキや盗撮していた茨城のタヌキは、人間がつくった景観に適応した生活を送っていた。そう、依存でなく適応である。

 

山タヌキと里タヌキの違い

 千葉の調査地を選んだ理由の一つは、拠点とした集落の戸数が江戸時代からほぼ増減がないことだった。開発と過疎から免れた里山のタヌキを知りたかったからだ。彼らは、丘陵地の二次林と平地の農地が混在する里山で何世代も生きてきた。そのなかで、ライフスタイルが少し違う2タイプがいた。

 里山の「山」のほうを中心に生活するタヌキたちは、人家に近づくことも、農作物を荒らすこともなく、実際に見るのも捕獲時のみで、死体とならない限り再会はなかった。繁殖巣穴には、尾根近くのアナグマが掘ったと思われる穴や昔の手掘り用水路があった。

 一方、「里」メインのタヌキたちは、外灯や車のヘッドライトで見ることや、農道でばったり出会うこともままあり、その住人は知らないが、庭にも出入りしていた。巣穴は廃屋の庭にある納屋の床下を使っていた。山タヌキのほうが里タヌキより一晩に動き回る範囲は大きく(平均15.4 vs. 4.9ヘクタール)、移動速度も速かった。

 くねくねと歩くことを示す移動のフラクタル次元は、行動圏内の農地面積が増えるにしたがい低くなった。つまり山タヌキが複雑な移動をするのに対し、里タヌキは比較的直線的であった。採食行動および景観構造の違いがそこに表れたのだろう。

亜成獣は、親の行動圏から離れることも

 2タイプの共通点は、河川敷の植生をよく利用することとアズマネザサの藪や用水路の会所をねぐらとすることだった。そして両タイプが、二次林と農地がモザイク状に配置するのに合わせ、その周辺を重複させながら、安定した行動圏を維持していることがうかがわれた。

2022.09.16(金)
文=佐伯 緑