転職、独立、正社員
何事も戦略的に考えて

 今回の震災で、多くの人々が家も仕事も一瞬にして失った。胸が痛む一方で、仕事のありがたみ、働けることの尊さを感じた人も多いのではないだろうか。

「今までただ漫然と仕事をしてきた人も、『家と会社との往復だけでいいのだろうか』と感じたり、家族の収入が一度に途絶えることを防ぐためにも『仕事を持ち続けておく』という意識は高まったと思います」(小室淑恵さん)

 アンケート結果には、「自分の仕事の意味が見出せなくて辛い」「人の役に立つ仕事がしたい」「家の近くで働きたい」など、さまざまな仕事観や悩みが綴られていた。「安定した正社員になりたい」という声も目立つものの、正社員での雇用は厳しいといわれて久しいが、現状はどうなのだろう。

「2007年から団塊世代の会社員が一斉に退職し、日本の労働力人口は、実はまったく足りていません。上の世代が抜けないから、新しい人材を採用しないということを繰り返してきたため、先細りになっています。そこで正社員が増えるかと言うと、景気の変動があるため、とりあえず派遣で穴埋めするという短期的思考の企業がある一方で、『派遣でしのぎ続けてもノウハウが蓄積されず、会社に何も残らない』ということに気づき始めている企業も増えてきています。会社の中核となれる実力を身に付け、『軸となってほしい』と思われる人物になることが、正社員への近道だと思います」

 人生は一度きりだから、やりたい仕事で独立したいという声も。

「いきなり会社を辞めて、やりたいことを仕事にするのは危険。以前、企業に勤めていた友人は、ネイリストを目指して仕事を終えた18時以降に、格安で友人たちのネイルを手掛けていました。地道に続けるうちに評判を呼び、顧客がどんどん増えて数年後にスムーズに独立。ある程度固定客がいる状態で起業するのがおすすめです」

「仕事観が変わった」と、転職を望む人も少なくない。

「転職志向の人を見ていて思うのが、24時間を仕事に捧げているのに、やりたい業務をやらせてもらえないことに不満を感じている人が多いこと。すべてを仕事に期待してしまうから、不満が募るのです。そもそも実力不足だからやりたいことをやらせてもらえないということも多々。仕事外の時間で、ボランティアや自己啓発、勉強など、仕事以外のことを始めると、実力もついて、人脈も広がり、結果的に関係する企業に転職が決まることもあります」

 いっときの感情で短絡的に動かず、しっかり戦略を練って行動を。

お話をうかがった方 小室淑恵さん
株式会社ワーク・ライフバランス代表。企業に「働き方の見直しコンサルティング」を提供。近著は、駒崎弘樹氏との共著『2人が「最高のチーム」になるワーキングカップルの人
生戦略』(英治出版)

2011.08.30(火)
text:Yukiko Umetsu
illustration:DONA

CREA Due Life 2011年10月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。