「神童」「マエストロ」のさそうあきらによる音楽マンガを映画化した『ミュジコフィリア』で、主人公・朔を演じる井之脇 海。その独特な佇まいと確かな演技力で、多方面で活躍している彼に、子役時代からのキャリアを振り返ってもらいました。

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●12歳で、カンヌのレッドカーペットを歩く

――井之脇さんの幼い頃の夢は?

 小学3年生の頃、ミニバスケットをやっていたこともあり、バスケ選手になりたいと漠然と思っていました。ちょうど、そのときに児童劇団に入り、お芝居の稽古の方が楽しくなっていきました。お芝居に正解がないというか、終わりがないところにハマったんです。

――ちなみに、児童劇団に入るきっかけは?

 家族を含めて、みんなに注目されたかったことが大きいです。とにかく小さい頃は、髪も染めていた時期もあったり、やんちゃで目立ちたがりな子でした。なので、テレビに出られれば、お芝居にかぎらず、歌でも、ダンスでも、何でも良かったんだと思います。

――2008年、黒沢清監督の『トウキョウソナタ』に香川照之さんの息子役で出演。この作品で、カンヌ映画祭のレッドカーペットを歩くだけでなく、「キネマ旬報ベスト・テン」の新人男優賞受賞も受賞されました。

 『トウキョウソナタ』という作品に関わることができたことで、僕の人生が変わりました。自分のお芝居がアマチュアだなと、子どもながらに思ったんです。それで芸能もできる中学に進学しました。でも作品が評価されて、僕も新人賞をいただいたりして、自分の周りも含めて温度が上がっていく中で、今思えば、「俺できるじゃん」と、ちょっと勘違いしていたかもしれません。でも、すぐに何もできないことに気づかされ、しっかり仕事に向き合おうと思うようになりました。

●刺激を受けた染谷将太の存在

――その後は、あえて仕事と学業を両立されていたように思えます。

 『トウキョウソナタ』の現場で、香川さんから「伸ばせるものは、何でも伸ばせ」ということと、「大学に行け」ということを言っていただいたんです。それで、普通の学生生活を送ることの大切さを学ぶためにも、事務所の方に「7~8割は学業に重きを置きたい」と話したことを覚えています。部活に入ることはなかったですが、楽しかったです。そして、高校に入ってからは、『ポンヌフの恋人』を観たことで、映画にハマりました。

――ちなみに、ご自身にとって転機となった作品は?

 環境が変わった転機は『トウキョウソナタ』ですが、意識が変わった転機はスペシャルドラマ「ブラックボード~時代と戦った教師たち~」(12年)です。そのとき、染谷将太さんと出会ったんですが、とても衝撃的でした。染谷さんは3歳ぐらいしか違わないのに、とても映画に詳しいし、お芝居もスゴい。いろいろと刺激を受けたことで、意識も変わり、それがお仕事にも繋がっていきました。

――13年に、ヒロインの弟を演じた「ごちそうさん」以降、「ひよっこ」(17年)など、NHK朝ドラにも出演。来年22年放送の「ちむどんどん」にも出演されます。

 地方ロケに行ったときに、声をかけていただけることは、やはり嬉しいことですし、日本全国で愛されているドラマだということを痛感します。「ちむどんどん」も、なかなか面白い役を演じるので、みなさんの期待に応えていきたいと思います。

●「ぎぼむす」「俺の家の話」などのドラマにも出演

――また、上白石萌歌さんの同級生役を演じられたドラマ「義母と娘のブルース」(18年)なども話題になりました。

 去年からインスタグラムを始めたんです。そこでのコメントやDMも見ていて分かったことなんですが、民放のドラマに出演すると、よりみなさんの反応や反響がタイムリーに分かるんです。それは面白いことだなと思いました。

――21年放送のドラマ「俺の家の話」では、プリティ原というプロレスラー役を演じられ、どこか意外性もありました。

 体作りに関しては、大変といえば大変でしたが、役者として、当たり前といえば当たり前じゃないですか。短期間でどれぐらいできるかという勝負でしたが、トレーナーさんに付いてもらったりして、いろいろ話し合いながらやっていきました。今回やってみて思ったのは、こんなふうに体重の増減みたいなものがあると、役に近づいていく感が目に見えて分かるんです。それで、気持ちも楽になるというか、嬉しくなる。「お、プリティに使づいているな」と(笑)。

――また、「プロミス・シンデレラ」では、二階堂ふみさん演じるヒロインの元夫役を演じられました。

 役の年齢が31歳で、結婚していて、しかも不倫をするキャラクター設定だったので、最初にお話しがあったときは、ビックリしました。なので、これまで観た映画や読んだ本などを参考にして演じる必要があったので、挑戦でもありましたが、演じたことのない設定や、普段取らないリアクションにチャレンジできるのは楽しかったです。そして、自分の成長というよりも、そういう役をいただけた喜びも大きかったです。

2021.11.12(金)
文=くれい響
写真=平松市聖
スタイリング=清水奈緒美
ヘアメイク=AMANO