とある西洋人による明治時代の日本の旅を描いた漫画『ふしぎの国のバード』(KADOKAWA『ハルタ』連載中)が話題だ。その漫画の出典となる『日本奥地紀行』は、実在したイギリス人女性冒険家のイザベラ・バードが、1878年(明治11年)に神奈川県・横浜から北海道(蝦夷地)まで旅行した記録である。『ふしぎの国のバード』は『日本奥地紀行』を下敷きに、バードとその通訳・伊藤鶴吉の旅を描いている。

『ふしぎの国のバード』1巻
ふしぎの国のバード』1巻

 文明開化の代償として、江戸時代以前の文化が失われつつあった過渡期である明治11年。すでに近代化が進んでいたイギリスから来日したバードは、当時の日本の風土を目の当たりにし、価値観を揺さぶられていく。我々日本人読者は、当時の西洋人の目線になって明治11年の日本の文化を読み解くことができるのである。

 作者の佐々大河氏は30代前半で、大学時代にイギリス近代史を学び、2013年に本作の読み切り版で漫画家デビュー。なぜ漫画の舞台に明治時代を選んだのか、佐々氏に聞いた。(全2回の1回目。後編を読む)

“滅びゆく文明”が持つ意味

――明治11年の日本を旅するバードは、近代化以前の文化が残る日本の風習の数々に驚かされます。この時代の日本を漫画の舞台に選ばれた理由は?

佐々 我々は日本人ですが、同時に現代人でもあります。そんな現代人である読者の目から見て、明治11年当時の前近代的文化の日本が、客観的にどう見えるかを描きたかったんです。もっと掘り下げて言えば、文明が滅びることがどういうものかを描きたかった。

 これまでにも世界中のあらゆる地域でさまざまな文明が滅び、その後に新たな文明が生まれ、そうやって変化してきたわけです。ですが、それによって人間の幸福度が上がったかどうかは断言できません。便利さや快適さは手に入れたと思いますが、それがイコールで幸せとは限らないと思うんです。

 あくまで一例ですが、昔は死んだ人間は子孫を守る神様になり、お盆になったら帰ってくると信じられていた時代や地域がありました。でも現代は死んだら無になると思っている人が大半でしょうから、“死”の意味合いが昔と今とでは全然変わってきています。もしかすると、昔の人は身近な人が亡くなったとしても、現代人より“寂しい”といった辛く苦しい気持ちが少なかったかもしれないですよね。

2021.07.10(土)
文=佐々 大河