作品群とじっくり向かい合える希有なチャンス

第3章:物語らない身体 1970s−1992:Photograph by Mie Morimoto

 そして「第3章:物語らない身体 1970s−1992」では、展示室に並ぶフルサイズの三幅対4セットの存在感に圧倒されることになる。三幅対という形式そのものが、キリスト教会の祭壇画に由来しているわけだが、その本来的な意味は薄れ、どことも特定できない抽象的な空間に、神話的、宗教的要素をまったく含まない、饒舌に「物語らない」身体がある──。1970年代以降、ベーコンが没するまでの作品に焦点を当てたこの章では、絵の中に物語が生まれることも、宗教的な含意を持たせることも忌避し、時に暴力的に歪められた、怪物のような肉塊としての身体、そして人間の存在そのものを描こうとした、晩年のベーコンの試みを明らかにする。

 最初は亡霊のような静けさと、無音の震撼と共に、そして最後は鋭い痛みを伴う愛撫と共に、観る者の内臓を喰い破るようにして、人間とはどのような存在かを思い知らせるフランシス・ベーコン。この時代に、彼の作品群とじっくり向かい合えるという希有なチャンスを、どうか逃さないでほしい。

フランシス・ベーコン展
会場 東京国立近代美術館
会期 2013年3月8日~5月26日
休館日 月曜日 ※ただし4月29日、5月6日は開館、5月7日は休館。
開館時間 10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)
※ただし会期中の毎週金曜日は20:00まで(入館は19:30まで)
料金 一般1500円
問い合わせ先 03-5777-8600(ハローダイヤル)
巡回 2013年6月8日~9月1日まで豊田市美術館で開催。
URL bacon.exhn.jp/index.html

橋本麻里

橋本麻里(はしもと まり)
日本美術を主な領域とするライター、エディター。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。近著に幻冬舎新書『日本の国宝100』。共著に『恋する春画』(とんぼの本、新潮社)。

 

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2013.04.27(土)