赤道を越えた南太平洋に、“楽園”という響きが世界でいちばん似合う島々がある。

 19世紀から20世紀後半にかけて、欧州の画家やシンガーなどアートに心捧げた人々は、文明によって失われた楽園を求め、タヒチを目指した。

 彼らを惹きつけてやまなかった何かを探しに、タヒチの島々――ボラボラ島、ファカラバ島、マルケサス諸島のヒバオア島、タヒチ島へ渡った。


タヒチアンは誰もが
生まれもってのアーティスト

 タヒチの玄関口、ファアア国際空港があるタヒチ島。

 大きなタヒチヌイと小さなタヒチイチ、2つの島が合体し、ひょうたんのような形をした、フレンチポリネシア最大の島だ。首都パペーテはタヒチヌイの北西に位置している。

 ほとんどのツーリストが首都パペーテ周辺で過ごす。もしくは、タヒチ島に到着してそのまま離島へ渡り、フライトの関係からタヒチ島には最終日に1泊するくらい。

 タヒチ島の本当の美しさを知らずして去ってしまうのは、正直もったいない。

 パペーテはタヒチ島のごく一部にすぎない。

 街から一歩外に出れば、地元の暮らしが見えてきて、さらにタヒチイチへ近づくにつれ、自然の迫力が増してくる。

 タヒチイチでは世界一美しくも凶暴といわれるビッグウェイブが押し寄せ、1,000メートル級の山稜に守られたカルデラ内に緑の息吹が立ち込める。

 ポリネシアの伝説が生まれた時代から変わらぬ、自然の営みが繰り広げられている。

 そんな環境に生きるタヒチアンは、言葉の代わりにダンスで自然や神への感謝や日々の暮らしを表現してきた。

 ゆっくりとした動きの「アパリマ」、そして激しい動きの「オテア」からなるタヒチアンダンス。

 滞在中に一度はホテルなどでダンスショーとして、鑑賞することがあるだろう。また、タヒチ島を車で走っていると、夕方の浜辺などでダンスを練習している子供たちを見かけることもある。

 そんなとき、タヒチアンは生まれながらにしてアーティストなのだと感心させられる。

2019.09.03(火)
文・撮影=古関千恵子