富士山を望むクレマチスの丘にて
戸外と室内の双方で咲く花を堪能

《テッセン》2012年、木に彩色。(C)Suda Yoshihiro/Courtesy of Gallery Koyanagi

 富士山を望むクレマチスの丘は、いくつもの美術館とレストラン、カフェ、そして1年を通じてクレマチスの花咲く庭園からなる施設。今の季節なら庭の花々も賑やかに咲き揃って、自然の美とアートをともに堪能し尽くせること請け合い。足を延ばして訪れる価値、じゅうぶんにありだ。

 庭園に隣接するヴァンジ彫刻庭園美術館では、草木の萌え盛るガーデンと呼応した展示が始まっている。『須田悦弘 ミテクレマチス』。

 須田は草花をモチーフにして、実物そっくりの木彫をつくり上げる作品で知られる。可憐なクレマチスの花にかねて惹かれてきた須田は、今展を機にクレマチスをかたどった新作をいくつも制作。これらが展示の中核を為すこととなった。

《クレマチス》2017年、木に彩色。(C)Suda Yoshihiro/Courtesy of Gallery Koyanagi

 およそ30年も木を彫ることに打ち込んできた須田の手にかかると、花弁や葉の微細な質感までが鮮やかに再現される。これは彫刻だといくら頭でわかっていても、作品と対面すれば思わず、「この小さい草花は、たしかに生きて呼吸している!」との思いに駆られてしまう。

 卓越した彫りの技術が、材木になった植物にもう一度生命を吹き込んでいるかのようである。

 ただ、ここでひとつ疑問が湧く。展示室のすぐ傍では、清々しい空気の中、本物のクレマチスが花を揺らしている。この上なく美しい。

 それをわかっていながら、どうして彫刻家は、わざわざそっくりのものを彫り出し並べたりするのか。観る側はそんな作品に、なぜ感嘆と共感に満ちたまなざしを注ぐのか。自然をただ写すということが、なにゆえ人にこれほど大きな歓びを与えるのだろう。

 須田悦弘本人いわく、制作しているときに、本物の草花を超えたいなどという意識はまったくないのだとか。作品をつくるために自然をじっくり観察すればするほど、ああなんてきれいなのだ、本物の草花のほうがつくりものよりも、当然ながらずっとすばらしいと、素直に心を動かされるのだそう。

 でき得れば、自身のそんな気持ちの揺れまで織り込めたら。作品を彫るときは、いつもそう夢想しているという。その際に生じる「念」のようなものは、つくりものの花にしっかりと宿り、作品を観る側にもちゃんと届くだろうことは信じているそうだ。

《雑草》2017年、木に彩色。(C)Suda Yoshihiro/Courtesy of Gallery Koyanagi

 自然をひたすら写すという単純な営みにおもしろさや美が生じる理由は、きっとこのあたりにある。戸外の庭園と展示室内、双方で咲く花からたっぷりの「美」を受け取ろう。

『須田悦弘 ミテクレマチス』
会場 ヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡・長泉町)
会期 2018年4月22日(日)~10月30日(火)
料金 一般 1,200円(税込)ほか
電話番号 055-989-8787
https://www.clematis-no-oka.co.jp/vangi-museum/

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2018.05.26(土)
文=山内宏泰

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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