パレルモの歴史を紐解く
“証拠品”の宝庫

パレルモ旧市街の中心地。遺跡の上に建つ、世界遺産アラブ・ノルマン様式の建築群サン・カタルド教会とマルトラーナ教会。内観は、煌びやかな黄金のモザイクで彩られている。

 紀元前3世紀の遺跡の上に10世紀頃のアラブ支配の面影を残すクーポラを載せた12世紀の教会。その数歩先には、バロック様式の華やかな彫刻が彩る交差点……。街を歩くだけで、地中海3000年の歴史を体感できる、イタリア・シチリア州の州都パレルモ。

 世界遺産アラブ・ノルマン様式の建築群をはじめとする見どころが多数点在していて、これだけの長い歴史が宿る街ですから、まだまだ知られざる超絶穴場スポットも数限りなく隠されています。

稀代の建築家ジュゼッペ・ダミアーニ・アルメイダが設計したメインホール「アルメイダの部屋」。1881年築。

 スペイン王国支配時代の名残を残す名前がついたメインストリート、マクエダ通り沿いにひっそり佇む、パレルモ歴史公文書館もそのひとつ。ここには、中世以降のこの街の歴史を紐解く貴重な公文書が保管されています。

 その数、約1万5290点。シチリア王の巨大な封印もセットで残る手書きレターや、イタリア統一の立役者ジュゼッペ・ガリバルディの直筆サインなど、歴史の遺物を無料で目にすることができます。

左:上階へのアクセスは、優美な木製螺旋階段を使って。
右:書物を上下階へ移動させる専用の滑車も当時のまま設置されている。

 館内に一歩入ると、まず驚くのはそのメインホールの壮大な美しさ。それもそのはず、設計者はポリテアマ劇場を手がけた、貴族建築家ジュゼッペ・ダミアーニ・アルメイダ。マッシモ劇場を設計した巨匠バジーレとともに、19世紀末の華麗なるパレルモを築いた建築家のひとりです。

 1881年に改築完成したホールの天井高は17.5メートルもあり、いくつもの柱に支えられた壮大な空間を囲む壁全体が一面、書棚になっています。その書棚によって埋め尽くされた壁の総面積は、なんと7000平方メートルもあるそうです。

スペイン王国が支配していた時代から、イタリア統一を経て、ムッソリーニのファシズム時代、そしてイタリア共和国時代まで約800年分の公文書が見つかる。

 膨大な書類をひと目で見渡せる歴史公文書館の顔とも言えるこのメインホールは、美しいとはいえ、各階の移動は手すりのついた細い通路のみ。バンジージャンプでもできそうな最上階あたりでは、高所恐怖症でなくとも落ち着いて読むことなど、到底できそうもありません!

 安全よりも美観が優先される時代の建築物。美しさと機能性の整合性については、当時の館長と建築家の間でだいぶもめたとの話も残されているんですよ、と現館長は語り、それが現在もそのまま利用されているところに、ある種の異国情緒を感じずにはいられません。閲覧は自己責任。日本だったらきっと無理でしょうね。

 さて、次のページでは視点をミクロに変えて、保管品の一部をご紹介!

文・撮影=岩田デノーラ砂和子