冬になると、やっぱり行きたくなるのが温泉の旅。でも、ひとりで温泉宿に行くと、いたたまれない思いをするのでは? なんて心配はもう無用です。ひとり客のことを考えて心地よい距離感でサービスをしてくれる、ひとりでのんびり過ごせる10室未満の温泉宿を紹介。

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昔話に出てくる小さな村のような宿

[大分・由布院温泉]
◆湯富里の宿 一壷天

フロントや食事処のある本館、ライブラリースペースのある談話室、客室などが並ぶ。

 「一壷天」とは、中国の故事に由来する言葉。後漢のある役人が薬売りの老翁とともに壷の中に入って別世界の楽しみを得たという。そんな物語のような宿が、湯布院の山中にある。もし、この宿を上空から覗けば、昔話に出てくる小さな村のように見えるだろう。

ひとり滞在におすすめの部屋「真朱」。二間続きの和室には、玄関、リビング、寝室、半露天風呂、テラスがあり広々。

 杉木立に覆われる敷地には、中庭を囲んで並ぶ瓦屋根の建物が、細い小道で繫がっている。和風、韓国風、中国風など趣の異なる8つの客室は、すべて半露天風呂付きの離れ。大人数用の4室以外の広々とした一戸にひとりで宿泊できるのは、贅沢な気分。

チェックインは本館のこちらのテーブルで。窓の向こうに雄大な由布岳を一望できる。

 「お部屋にお通しした後は、チェックアウトまで、こちらからお声がけすることはありません」と、総支配人の齊藤さん。小さな宿ゆえ、ゲストがどこにいるかは分かるけれど、つかず離れず、微妙な距離に気を配る。宿にいる時は日常の煩わしさを忘れ、自分だけの世界で寛いでほしいという思いがあるからだ。

「松葉」の部屋風呂。2つの貸切家族風呂もあり、予約なしで利用可。

 館内には、美術品などに詳しいオーナーがセレクトした古い調度品や骨董がセンスよく並ぶ。時を経たものが醸し出すあたたかい雰囲気の中、人の気配はあるけれど干渉されず、ただ、ひとりでいられるのが心地いい。日常に疲れたら、そんな別世界のような壷の中へ足を運んで。

カンパチを使った郷土料理「竜宮漬け」や手作りの豆腐など、大分産の卵や野菜、魚を使って、一品ずつ丁寧に作られる朝食。朝夕の食事が個室の食事処でいただけるのも嬉しい。

湯富里の宿 一壷天(ゆとりのやど いっこてん)
所在地 大分県由布市湯布院町川上302-7
電話番号 0977-28-8815 
チェックイン/アウト IN 15:00/OUT 11:00
1室1名料金 平日 42,270円~(1名利用は平日のみ)
1室2名料金 平日 31,470円~、休前日 36,870円~
食事 朝 食事処/夕 食事処
客室数 8室
交通 JR由布院駅よりタクシーで約5分
http://www.ikkoten.com/
●料金はいずれも1泊2食付(税・サ込)、カード利用可(VISA・MASTER・JCB・AMEX・DINERS)
●Wi-Fi(ロビーと客室、またはいずれか)接続可能、露天風呂付き客室がある、ギャラリー、ライブラリー、バーなど客室以外で過ごせる共有施設がある、源泉かけ流し(加温はあっても加水することなく源泉を給湯し完全放流)

2018.02.07(水)
Photographs=Hiroshi Mizusaki
Illustrations=WADE

CREA 2017年2月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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定価780円