御簾越しの恋は“香り”がキーワード

「源氏物語」が描かれた平安時代は、今のように電気もなかったことから、日中でも建物の中は薄暗かったことでしょう。

 その中で発展したのが、人それぞれに合わせて調合されたオリジナルの“香り”。残り香でも誰がいたか分かるほど、香りに対する意識が強かったのでしょうね。薫と匂宮たちもそれぞれの香りを持っていました。その名前からも分かるように、薫り立つ、匂い立つ、素敵な男性だったことと思います。

香りについての解説や香木を展示

 そこで、恋の舞台となった宇治にある「宇治市源氏物語ミュージアム」へ。学芸員・家塚智子さんにお話を伺いました。

「薫は光源氏の実子ではありませんが、えも言われぬ色香を身に具えていました。匂宮は実の孫で、身分も高かったものの、薫にはいつも叶わないというコンプレックスを抱いていました。『宇治十帖』には、出生の違いと、生まれ持った“香り”の観点から見たおもしろさがあります。中には印象的なのは、匂宮が対岸の中君に届くよう願って催した宴のシーン。宇治川をはさんだ対岸におり、川の流れによって離ればなれになっている二人ですが、“言葉は届かなくても、楽器の音や風に乗って運ばれる匂いは届く”んですね。そこに何とも言えない魅力を感じます」

「御簾越しの恋」だった当時を垣間見る

 現代のように便利な時代、言葉にしてもなかなか届かない思いもあります。その思いを、香りや音色に込めて贈る奥ゆかしさがあります。

 出会いと別れの春。「宇治十帖」を通して、平安時代の人々の、ロマンティックな恋と五感をフルに活用した感性のすばらしさに酔いしれたいものですね。

宇治市源氏物語ミュージアム
源氏物語の世界に触れられる展示室、「宇治十帖」物語シアター、映画「橋姫」の上映、講座などがある。
住所 京都府宇治市宇治東内45−26
電話番号 0774-39-9300
開館時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜(祝日の場合は開館、翌日休)
入場料 大人500円
URL www.uji-genji.jp

【「京都の桜」にちなんだイベント情報】

平安神宮 紅しだれコンサート 2012
開催日 4月5日(木)~8日(日)
5日(木)、6日(金)清塚信也(ピアニスト/作曲家)、7日(土)紅しだれカルテット(浅井眞理ほか、弦楽)、8日(日)いちむじん(ギターデュオ)を予定
1回目 18:40~19:20
2回目 19:50~20:30
場所 平安神宮
住所 京都市左京区岡崎西天王町
電話番号 075-241-6095(土日祝を除く10:00~17:00)
URL www.kyoto-np.co.jp/kp/kyo_np/info/moyoosi/2012benishidare/

宇治川さくらまつり 2012
開催日 4月7日(土)、8日(日)
場所 宇治公園、平等院堤、宇治川ライン
問い合わせ 宇治市観光協会 
電話番号 0774-23-3334(代)
URL www.kyoto-uji-kankou.or.jp

平野神社の桜

平野神社「桜花祭」
開催日 4月10日(火)
桜のライトアップは3月末頃~4月中旬(予定)
場所 平野神社
住所 京都市北区平野宮本町1
電話075-461-4450
URL www.geocities.jp/daa01397/

Column

五感を磨く京都歳時記

山紫水明の豊かな自然と伝統文化が息づく京都から、
五感を研ぎ澄ます四季折々の風景を中野弘子さんがお届けします。

2012.03.27(火)