鎌倉においしいパン屋が集うのは何でだろう――。鎌倉ならではの時間の流れと風土が、作り手が自由にパンを“創作”するのにぴったりだから? 地元の人や観光客など、客層が多様ゆえにパンにもオリジナリティが生まれるから? と同時にベーシックなパンも愛されているから?

 そんな、個性あふれる“鎌倉パン”のラインナップのなかから大人の女性におすすめしたい3つのテーマ、「ワインに合うパン」「ヘルシーパン」「小さな駅の実力派」より、2軒ずつをエントリー。おいしいパンを携えて海を見ながらブランチを楽しんだり、お気に入りを買って家でティータイムのおともにしたり。とっておきのパンをハントしに、鎌倉へでかけませんか。

店主の個性が光る、ヘルシーなパン

 作り手がゆっくりとパンに向き合えるのが、鎌倉の魅力。素材や製法にこだわるのはもちろん、パンを通してライフスタイルを提案したいという明確な思いをもっているのが印象的だった個性派ベーカリーカフェ、扇ヶ谷の「カノムパン」、常盤の「Kamakura 24sekki」の2軒をご案内。どちらもヴィーガンOK。カラダに安心で誠実なおいしさは食べ続けたくなること必至!

●扇ヶ谷「カノムパン」
生活に寄り添うヘルシーなパンを
心地よい空間でゆったりと味わう

 ヴィーガン、ベジタリアンOKのパン屋として人気の高い「カノムパン」が、葉山から鎌倉へお引っ越し。扇ヶ谷にあるカフェ「terre verte(テールベルト)」と合併し、今年2年目を迎える。シンプルでラスティックなパン作りはそのままに、パンに合う季節料理を楽しみながらのんびりできるベーカリーカフェとして、さらなるファンを増やしている。

お店の扉を開けるとすぐに飛び込んでくる“パン棚”。その約半分が、グラム単位での量り売り。好きな種類を好きな分だけ購入またはイートインできる。

 葉山時代から変わらず、材料と製法にこだわり抜いたパン作りを続けるのは内藤岳(ないとう・がく)さん。使う国産小麦4種類のうち、メインとなるのは地元藤沢の農家から直接仕入れる小麦。玄麦からその日使う分だけ石臼で挽く。粉の風味を活かすように、水と塩にこだわって、シンプルに焼き上げる。

「藤沢産湘南小麦とは、かれこれ10年以上の付き合い。元来うどん用に作られていた粉で、パンにするともちもちとした食感があり、挽き立てを使うから香りも強く、風味があります。その個性を味わうなら、全粒粉100%で玄米酵母を使ったコンプレがおすすめ。米で例えるなら玄米。じっくり噛みしめて食べたくなるパンです」

素材の旨みが引き立つ食事系のパンは、滋味にあふれ飽きがこない。その日の料理や気分に合わせて好きなものを選んで。
前列:全粒粉30%、風味豊かな田舎パン「カンパーニュ」ホール 2,400円、1/2 1,200円、1/4 600円。後列左:藤沢産小麦100%で作る「コンプレ100」1g 3円。後列右:全粒粉30%、熊本産の味噌を生地に練り込んだ「ミソローフ」1g 1.8円。※すべて税別
店内の内装を手がけるのは、テールベルトのオーナーであり、家具職人、インテリアデザイナーでもある中村美雪(なかむら・みゆき)さん。おいしいパンと料理を食べながら、オーダーメイド家具やインテリアコーディネート、キッチン設計などの相談をすることも可能。

 お店のブローシャーやパンのポップにも書かれている“Vegan Friendly”の表示。自身はヴィーガンではないというパン職人の内藤さんにその思いを伺った。

「食事療法の広がりから食の習慣や嗜好が多様化するなかで、ヴィーガンの方の規律が特に厳しいと思いました。“食”は、みなで囲んで食べるのが楽しいもの。一番制約のあるヴィーガンの人が食べられるパンがあれば、違うライフスタイルの人同士でも食を楽しめる。パンを通して、そんなユニバーサルな食の場が、もっとカジュアルに生まれるきっかけになれば。実際、片方がヴィーガンというカップルが一緒に食事を楽しんで、パンを買っていく様子を見るとやりがいを感じますね」

 ヴィーガンに寄り添うことで、ハードなパンが増えた。その分、バターやジャムを塗ったり、好きな具材をサンドしたり、買う人によってアレンジできる幅が広がる。毎日の生活に寄り添うベーシックなパンを求め、リピーターが絶えないのも納得だ。

 カノムパンは、ゴールデンウィークの2017年5月3日(水・祝)~8日(月)の間、大阪の阪急うめだ本店のパンフェアに出店する。今回はそこで販売される、“スタメン”をご紹介。

左:「ヴィーガンシナモンロール」400円。右:「バナナパン evoV」1g 2.5円。※すべて税別

 カノムパンのシグネチャーである「バナナパン」(写真上・右)。改良に改良を重ね、現在は“エボリューション5”に突入。一番のエボリューションは、バナナ、シナモン、ココナッツ、アガベシロップが入ったペーストが渦状になったこと。ココナッツは生地にも練り込んであるほか、表面にもまぶされアクセントとなっている。

 葉山時代からの人気商品であるシナモンロール(写真上・左)は、乳製品不使用。ヴィーガンOK。アイシングを施してないので甘いのが苦手な人にもおすすめ。シナモンはオーガニックのものを使用、生地に巻き込んだレモンピールが程よい余韻をもたらす、まさに大人の甘パン。

 「鎌倉は“観光地”の印象が強く、近寄りがたい雰囲気だった」という内藤さん。しかし、駅から離れたこちらのカフェを訪れてからすっかり意識が変わったとか。中庭から望む鎌倉岩、店内に注ぐ陽の光に魅了され足繁く通ううちに、「ここでパンを作りたい」と強く思ったという。

 意気投合したふたりが次に目指すのは、グルテンフリーのパン。また、スペースを活かしてイベントなども実施していきたいそう。パンを巡る旅はまだしばらく続きそうだ。

内藤岳さん(左)と、中村美雪さん(右)。息のあったふたりが作る居心地のいい空間が、訪れた人をやさしく包む。
2階もカフェスペースとして開放。店内にある雑貨や家具の一部はカフェのオーナーである中村さんが英国を中心に買い付けてきたもの。掘り出し物が安価で購入できることも! ぜひチェックを。

カノムパン
所在地 神奈川県鎌倉市扇ヶ谷3-3-24
電話番号 0467-67-1339
営業時間 12:00~18:30
定休日 水・木曜
http://www.khanompang.com/

2017.04.22(土)
文=吉村セイラ
撮影=平松市聖