伝説の焙煎人に聞いた
美味しいコーヒーの創り方

焙煎人は、コーヒーの味わいとともに、香りを作り出すプロでもある。

 近年、ロースター(焙煎工場)を併設したコーヒーショップが増えている。よりフレッシュで香ばしいコーヒーを提供できるほか、これまであまり注目されてこなかった「焙煎」というひとつの調理工程をオープンにすることで、味わう人に、食への安心感を抱いてもらう目的も大きいようだ。

焙煎人・中川ワニさんの自宅兼アトリエの一室に置かれた焙煎機。この空間で、味わい深いコーヒーの源が生み出されている。

「日常的に口にしているコーヒーがどうやって作られているのか、ケーキのレシピや作り方を解説するのと同じように、焙煎ももっとわかりやすく伝えていくべきだと思います」

 このように語る中川ワニさんは、焙煎を始めて23年、プロからも支持を集める「伝説の焙煎人」だ。あえて実店舗を構えず、自宅兼アトリエで焙煎を行う傍ら、美味しいコーヒーの淹れ方を多くの人に伝えるべく、全国各地で教室を開催している。そんなワニさんに、現代のコーヒートレンドを知るうえでキーポイントとなる「焙煎」に焦点を当て、コーヒーの楽しみ方を伺った。

コーヒーは、人と人とをつなぐ
コミュニケーションツール

ユニークな「ワニ」という名は、ロースターを始める際に、屋号としてつけたもの。コーヒー缶などのオリジナルグッズにも、ワニがアイコンとして描かれている。

 ワニさんとコーヒーとの出会いは、今から40年ほど前の中学時代に遡る。

「僕の家庭教師だった男子大学生がコーヒー好きで、家に道具を持ってきてハンドドリップで抽出する様子を見せてくれたことがありました。まるで理科の実験をしているかのようで、とてもワクワクしたのを覚えています。それがきっかけで、コーヒーに興味をもつようになり、お小遣いをもらっては豆や道具を買いに行っていました」

ワニさんのコレクションである、さまざまなタイプのコーヒー道具。年季の入ったものでも、丁寧に手入れがなされている。

 その後、美術大学への進学を目指して上京し、カフェでアルバイトを始めたワニさん。コーヒーを通し、さまざまな出会いがあったと振り返る。

かつて、深川・門前仲町にあった「CAFÉ寄港地」。店を畳むときに、マスターが思い出として渡してくれたというマッチ箱を懐かしそうに眺める。

「僕のコーヒー人生の原点ともいうべきそのお店には、マスターの人柄を慕う、さまざまな職業の個性的なお客さんたちが集まっていました。その人たちとの会話を通して学んだ価値観は、現在も自分の中で生き続けています。また、一緒にコーヒーショップを巡るような、共通の趣味をもつ友人たちと知り合えたことも財産ですね。コーヒーは、人と人をつないでくれる『縁』のある飲み物だと思います」

2017.04.12(水)
文=中山理佐
撮影=佐藤 亘