vol.07 京都(2)

「肉が食べたいっ」となった瞬間、心が京都に飛ぶ

フライパンにたっぷりと油を入れ、肉を焼く「揚げ焼き」という独特の手法。

 肉が食べたい。ある日突然、どうしようもなく牛肉が恋しくなるときがある。牛肉に噛り付きたくって、居てもたってもいられなくなる。

 おそらく、僕の中の野性という本能が、体と精神に牛肉を求めているのだろうと思う。こういう時はステーキである。焼肉やすき焼きもいいが、この気持ちをおさめてくれるのは、ステーキである。

 東西数多くの肉焼き名人がいて、素晴らしいステーキ屋があるが、中でも「揚げ焼き」と呼ばれる手法で、当代一の名人だと思う料理人が京都にいる。

 僕はこの「肉が食べたいっ」となった瞬間、心が京都に飛ぶ。そこでなんとか工面をつけて京都に行く。

表面はガリッと香ばしく、中は一面ロゼ色で、肉のたくましさと優しさに溢れている。

 今の時期だったら、昼過ぎに着いて、混雑している洛中を避けて、京都駅から地下鉄に乗って洛北へ向かう。北山で降りたら、府立植物園でのんびり、近くの「茶寮 宝泉」で一休み。座敷に座って庭を見ながら、おやつに清涼たる、作りたてのわらび餅をいただく。

パリの名だたる肉屋やステーキ店で修行してきた茂野眞さん。

 そして上賀茂神社を参拝したのち、南にバスで向かい、「Le 14e」に向かう。オーナーシェフの茂野眞氏は、パリの名だたる肉屋やステーキ店で修行してきた人である。揚げ焼きとは、フライパンにたっぷりと油を入れ、肉を焼いていく手法。途中肉にスプーンで油をかけながら、部位ごとに微妙に火加減や油のかける量を調整して焼いていく。

 焼き上がれば、表面はガリッと香ばしく、中は一面ロゼ色で、肉のたくましさと優しさに溢れている。彼は、同じに焼いているように見えながら、肉の質や部位を読み取り、フライパンのどの位置に置くか、油の量をどうするか、瞬時に判断して焼いていく。フライパンを持つ彼の指先の神経は、きっと肉の中心まで伸びているのに違いない。

2016.04.21(木)
文・撮影=マッキー牧元