演出を手がけるのは世界的巨匠ジルベール・デフロ

大勢の男たちからの賛辞を浴びるマノンは、「豪華さ」のシンボルである金色のドレスを着て鏡の中の自分に魅入る。 撮影:三枝近志/提供:新国立劇場

 2011年3月、東日本大震災のため急遽公演中止となった新国立劇場の『マノン・レスコー』。プッチーニの出世作であり、美しいメロディが噴水のように溢れ出すこの名作オペラを上演するために、万全の準備が進んでいたが(本番とほぼ同じドレス・リハーサルまで行われていた)幻の公演となってしまった。 

 あれから4年経ち、日本ではもはや見られないと思われていたプロダクションが、奇蹟の復活を果たす。同じキャストによって再びチームが組まれ、2015年3月9日(月)から全5回の公演がスタートした。

騎士デ・グリューはマノンに一途な愛を抱き、宿命に引き裂かれた後も彼女を追い求める。 撮影:三枝近志/提供:新国立劇場

 その「復活」稽古を見学して、感動のあまり涙腺が決壊してしまった。一度壊れてしまったものを心をこめて修復するように、ソロ歌手も合唱も、プッチーニの音楽のひとふしひとふしに愛を注いで練習していた。その素晴らしい稽古場の中心にいたのが、世界的な演出家ジルベール・デフロ氏だった。

 ベルギー出身のこの71歳の巨匠が、今まで演出したオペラは150作品以上、舞台に送り出したソロ歌手は2000人を超える。そしてその演出スタイルは、歌手の心にしっかりと入り込み、全員と心を通い合わせて物語の本質を描き出すという感動的なものだ。日本文化を深く愛し、能や歌舞伎にも精通しているデフロ氏。独特の人懐こい声で話すマエストロに、この上演への思い入れを聞いた。

2015.03.11(水)
文=小田島久恵
撮影=白澤 正