罠をしかけて野生の豚を獲り、畑を耕す自給自足生活

 住民たち自らの手で切り拓いたという山道を4WDで走り、車が通れない狭い道の入り口まで来たら、そこから先は徒歩で集落をめざす。「道からそれないように気をつけて! 草むらの中には獲物を捕まえるための罠がしかけてあるから」とカリー。彼らの生活は基本的に自給自足。自生しているシイタケを採り、畑を耕し、山で野生の豚や鴨を獲り、食糧にしている。

カリー曰く、「仕掛けた罠は全部で150。大きいのは豚用、小さいのは鴨用。山豚は賢いから、たまにしか獲れない」。

「ロカスー!」。タイヤル語による歓迎の挨拶に迎えられ、集落に到着。さっそく、スタッフの案内で見学ツアーへと向かう。中は居住エリアと農耕エリアに分けられ、人が暮らす伝統家屋のほか、工房(織布と木工)や醸造所、ゲストをもてなす食堂などが点在している。ちなみに、「プーラオ・ブールオ」という集落名は、タイヤル語で「ぶらぶら歩く」という意味があるという。その名のとおり、ゲストはぶらりと散策しながら、タイヤル族の人々と触れ合うことができるのだ。

タイヤル語で「ロカ」=健康、「ス」=あなた。温かな挨拶に迎えられ、集落をぶらり散策。

 ここで暮らす人の中には、日本語を話す人もいて驚かされる。日本統治時代(1895~1945年)に日本語教育を受けた世代の原住民は、他民族との共通語が日本語という時もあった。お年寄りの中には今でも美しい日本語を話す人もいるし、その子世代でも、両親が使っていた日本語を覚えている人がいる。「ようこそ。今日はゆっくりと楽しんでいらっしゃい」と話しかけてくれる優しい日本語に、日本の田舎を訪れたかのような、ほのぼのとした気分になる。

伝統的な木彫だけでなく、生活に必要な道具を作るのは男性の仕事。
織布工房。糸を撚り、布を織ることはタイヤル族の女性にとって大切なスキル。その技術を持たない若いタイヤル族の女性に、おばあちゃんが伝統の技を伝授して、今は全員が織れるようになった。販売されている鮮やかなストラップはお土産にも人気。
タイヤル族伝統の「ラキス(粟酒)」を手作りする醸造所。建物はすべて竹でできていて、2年に1度、建て替えるという。

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2014.09.09(火)
文・撮影=芹澤和美
コーディネーション=Lily Yi