「スーパースターになるための企みとその顛末」を描いた青春小説

 子どもの頃、サインの練習をしたり、テレビのトーク番組に出演する自分の姿を想像したことがあるという人、多いのではないかと思います。もしかしたら何かの才能があって、将来、有名になっちゃうかも?  そんな夢想はたいてい平和で、ぼんやりと幸福なものですが、小樽のはずれのオタモイという町に住む中学生、堂上弥子(どうのうえ・やこ)のそれは、ほとんど憤りに近いものでした。

〈どうして、わたし以外のひとは、わたしを、わたしの思うとおりに認めないのだろう〉

  特段飛び抜けているところはない。けれど自分は素晴らしいと弥子は信じていた。そしてその素晴らしさを誰かが見いだすべきだと思っていた。根拠のない自信を持て余す弥子の弱気を見抜き「組んでもいいよ」と言ったのは、耳の中でリズムを伴った音が鳴り始めると、どうしようもなくからだがどこかへ行きたがるという衝動を抱える、ヤンキー家系の美少女、ニコこと鈴木笑顔瑠(にこる)。

 古語で「見せびらかす」という意味の言葉をタイトルにしたこの『てらさふ』は、2人の「スーパースターになるための企みとその顛末」を描いた青春小説ですが、想像がつくように弥子とニコ、無邪気に夢を語って笑い合うような友情を結ぶわけではありません。

「わたしが書いて、ニコの名前で応募する」

  野望を抱いていることを、知られてはいけない。学校では距離をおくことにした2人は、毎日どちらかの家で作戦会議をひらきます。最初の「仕事」を選んだのはニコだった。読書感想文コンクール。全国レベルの賞を目指すと決めたのは弥子だった。「わたしが書いて、ニコの名前で応募する」。つまり自分がブレーン、ニコがビジュアルを担当する分業制にしようと弥子は提案します。「そういう感じで、やっていこうと思うの」と。

 たまごの黄身(弥子)と白身(ニコ)だと本人たちが捉えているその役割は、しっかり2つに分けられる固ゆでの状態であれば、問題なく果たすことができます。しかし、なまの状態では難しい。ちいさな穴が開けば、たやすくこわれてしまう。走り出した彼女たちはもちろん、そんなことには気づきません。ひとつめの「仕事」が目論見通りに行き、弥子は、高校生のうちに芥川賞を獲るととんでもない野望を掲げます。そしてあるお宝の発見を足掛かりに、計画を加速させていくのですが──。

 かつて、弥子のように誰かに見いだされたいと願い、映画のオーディションに何回も応募していた私は、自ら影になることを選んだ弥子の心が満たされますようにと、本を持つ指に力を入れながら読んでいました。物語は半ば以降、徐々に息苦しいような展開になっていきます。でも、もうどこに辿り着こうと2人の疾走を最後まで見届けなければ、と読者は思うに違いありません。私は「books A to Z」というラジオ番組で本の紹介をしていますが、この本を取り上げたとき、弥子の声は少し硬めで高め、ニコの声は低めに作ってみました。会話部分も秀逸なこの作品、みなさんの頭の中で、2人の声はどんなふうに響くでしょうか。

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北村浩子
メーカーの会社員を経てラジオのアナウンサーに。現在、FMヨコハマでニュース及び「books A to Z」を担当。これまでに1700冊の本を紹介している。趣味は海外ドラマ、テニス観戦。(撮影=浦川一憲)

てらさふ

著・朝倉かすみ
本体1,850円+税 文藝春秋刊

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2014.03.21(金)
文=北村浩子