阿部智里氏のベストセラー小説「八咫烏(やたがらす)シリーズ」がアニメ化される。八咫烏とは日本神話にも登場する三本足の烏だが、人間の姿に変身できる八咫烏の一族が、異世界〈山内(やまうち)〉を縦横無尽に飛びまわる。平安王朝風の雅な風俗に、朝廷の権力争い、さらに〈山内〉という世界の謎を描く、壮大なファンタジーだ。

〈山内〉を統べる族長一家が宗家、その長が〈金烏〉だ。次の金烏となる謎多き皇太子・若宮役をつとめたのが、人気声優の入野自由さんだ。

「普段は爽やかで溌溂としたキャラクターを演じることが多いので、クールで掴みどころのない若宮役は、僕にとってチャレンジでした」

 類まれな美貌をもつ若宮は、金烏の中でも何十年かに一度生まれるという〈真の金烏〉とされる。にもかかわらず、公務を果たさず花街に通うなど、“うつけ”という評判だ。北領・垂氷郷郷長の“ぼんくら次男”雪哉は、ひょんなことから若宮に仕えることに。

「若宮はポーカーフェイスで、感情は表に出しません。なので、演じる際には“内には何かを秘めている”ということを意識して、あとは、ゆっくり丁寧に、淡々と話して、高貴な空気感を出すようにしました。

 彼自身がミステリアスな存在ではありますが、その謎は物語の展開の中で明らかになっていくものなので、ミステリアスに演じようとか、意味深に喋ろうということはあえてしていません」

 自身の兄を追い落として世継ぎとなった若宮の周囲は敵だらけ。一方で、大貴族から4人の姫が遣わされ若宮の后選びが始まるが、若宮は特に興味も示さず、姫君たちのもとを訪れる様子もない。そんな若宮に雪哉は戸惑うが……。

「雪哉からしても、姫君たちからしても、若宮が何を考えているか分からないですよね(笑)。本人も『それでいい』と思っているところが潔い。若宮は周りにどう思われようが自分の思った通りに物事を進めていくことだけを考えている。でも、どこか憎めないところがあるのは、彼の根っこの部分に優しさや思いやりがあるからだと思います。そこがまた、人たらしですよね」

2024.04.21(日)
文=「週刊文春」編集部