無事1頭を出産。しかし、授乳がうまくいかず……。

 1回目の妊娠が判明すると、ミンピが落ち着いて過ごせるようにと産室を用意。人がなるべく立ち入らないように監視カメラをつけるなどして準備を進めてきました。そして、昨年4月28日、ついに出産。2頭のうち1頭は残念ながら死産となってしまいましたが、生まれた瞬間は、見守っていた職員の皆さんから安堵の声がもれたそうです。

「生まれてから大事なのは動いているかどうか、授乳できているかどうかです。(生まれた子が)鳴いているのはよくない。お腹が空いていると鳴くので、静かであることが望ましいのですが、ミンピの場合、子どもに興味を示さなくなってしまい、アサは鳴いていました。

 授乳ができていない可能性も考慮しつつ、なるべく手は出さないほうがいいため様子を見ていたところ、ミンピが子どもに興味を示さなかったため、この先、授乳は難しいと判断して介添え哺育に切り替えました。その後、ミンピの元に戻したところ、子どもへ興味を示したり、授乳の体勢をとったりはしたのですが、少し攻撃的になってきたこともあって人工哺育に切り替えました」

 動物園で飼育しているとはいえ、スマトラトラは野生動物。人に慣れすぎてしまうと今後の繁殖に影響を与える可能性もあるため、飼育担当者を固定して面倒を見たり、同園で飼育しているほかの個体と檻越しに会わせたりしながら、なるべく野生に近い環境を保って成長を見守ってきました。

 また、健康診断によってアサには先天性が疑われる腎臓の異常があることが判明。根治は難しいものの、今の状態を維持、そして改善していく努力をしている、と大橋さんは語ります。

2024.03.17(日)
文=高本亜紀
写真=松本輝一