ヒラメのムニエルを目の前で切り分けてくれる

ワゴンでサーブしてくれる舌ビラメのムニエル。ル・トゥケ産ジャガイモを添えて。

アヤ モダンな場所、ということで想い出したのだけれど。とても印象的だったのは、目の前でヒラメのムニエルの切り分けを見ることができたことだったわ。客室責任者のエリック・メルシエが、ゲリドン(ワゴン)の上でそれを見せてくれたのだけれど、それは細かな職人芸だった。旧き良き儀式なのに、なかなか他では見られないものよ。

セバスチャン 確かに、切り分ける前の肉の大きな塊とか、魚一匹を銀皿に乗せて見せてくれる店もあるが、それらはキッチンに持ち去られ、そのあと、小さなお皿に乗せられて出てくるというのが、最近のほとんどの店のやり方だからな。

アヤ レッシュでは、“切り分け”の技術なり知識というのを、サービスする人間が知り抜いているから、お客の前でも見せることができるのよね。日本人として、“切り分け”は、フランス料理芸術の1つと思うのよ。それに、エリック・メルシエ。彼は素晴らしい。細部の出来事にも気がついて、先回りしてくれる。サービスの鑑のような人よ。

セバスチャン たしかにアラン・デュカス傘下のほとんどの店は、サービスにおけるクオリティが半端ではない。お客は自分の家に案内されたかのようになり、くつろいだ心持ちになる。ここで過ごす時間は、流れるようで、調和をたたえている。

アヤ レッシュの食事を終えて外に出たとき、幸せな気分に包まれるのは、そのせいよ。

セバスチャン 場所の話にもどると、アラン・デュカスはしっかりとアドリアン・レッシュの遺産を守っている。改装はしたけれど、アイデンティティがしっかり残っている。すっかりリラックスしてここに座ると、ノルマンディかブルターニュの海辺にいるように感じるよ。レッシュでは海への旅ができる。パリにいながらにしてね。

アヤ 確かに、1階はまるで船中のような内装だものね! それに、この店にあるちょっとしたオブジェから、伝説に身を沈めることもできるわ。例えば、クリスタルのシャンパーニュグラス。アールデコのシリーズよ。グラスは足の部分も空洞になっていて、底の部分から泡立ちを見ることができるのは、なかなか素敵。どっちかというと、私は海辺より“べル・エポック”に旅したいわ。

セバスチャン もう1つの伝説を知っている? マレク・ジャバリ、牡蠣を開ける職人だ。30年来、夏も冬もこの仕事に従事してレッシュに立っているんだ。彼はパリのグルマンたちの顔をすべて知っているし、グルマンたちは彼が見守る牡蠣のスタンドを知り抜いているんだ。

Rech (レッシュ)
所在地 62 avenue des Ternes 75017 Paris
電話番号 +33-1-5800-2203
URL http://www.restaurant-rech.fr/
営業時間 12:00~14:00、19:30~22:00
定休日 日・月曜日

伊藤文 (いとうあや)
パリ在住食ジャーナリスト・翻訳家。立教大学卒業。ル・コルドン・ブルー パリ校で製菓を学んだ後、フランスにて食文化を中心に据えた取材を重ねる。訳書にジョエル・ロブション著『ロブション自伝』、グリモ・ド・ラ・レニエール著『招客必携』、フランソワ・シモン著『パリのお馬鹿な大喰らい』(いずれも中央公論新社)、著書に『パリを自転車で走ろう』(グラフィック社)など。食に関わるさまざまなジャンルの人々を日仏で繋ぐ、バイリンガルのウェブマガジン「食会」主宰。
食会 http://shoku-e.com/

セバスチャン・リパリ
料理コラムニスト、コンサルタント。国際的なガストロノミー会社「Food & Beverage」 のコンサルタントを15年務めた後、「Bureau d'Etude Gastronomique」を設立。アラン・デュカス出版の編集やCanal+料理番組のコンサルタント、多くのイベントのディレクターを務める。名シェフ、ティエリー・マルクスが会長を務めるアソシエーション「Street Food en Mouvement」の創始者で副会長。
Bureau d'Etude Gastronomique http://www.lebureaudetude.com/

Column

アヤ&セバスチャン パリ、男と女のフレンチ語り

滞仏20年の料理ジャーナリスト/翻訳家、伊藤文。錚々たるシェフたちからの信頼を得る料理コラムニスト/コンサルタント、セバスチャン・リパリ。花の都の美食に通じたふたりの男女が、いま訪れるべき最高のレストランについて縦横無尽に語り合う。ここに、フランス料理の真髄がある。

2014.02.16(日)