ピンチをチャンスに変える才覚

 テイラーの挑戦はまだつづいている。2019年、古巣レーベルが買収されたことで、過去作の権利が宿敵ウェストと近しい業界人の手にわたってしまったのだ。みずからの心血をそそいだ芸術を奪われたテイラーは、旧作の再録版の連続リリースを決行した。

 このため、2020年から2023年にかけて彼女がリリースしたアルバムは、再録版をふくめて7枚。なんと、それまでのキャリア14年分と同じである。複数のボーナストラックやリミックスをそなえた再録版は、それぞれ驚異的なロングヒットを記録。『1989』再録版にいたっては、全世界でキャリア最多となる初週350万枚分の売上を達成した。

 この怒涛のリリースは、このたび日本にもやってくる「ジ・エラズ・ツアー」の大成功に貢献した。懐かしのヒット盤を再リリースしたことで、大衆が彼女の名曲を再度体験するという、いわばノスタルジー需要が生まれたのだ。女性たちが殺到した公演は「同胞」が一体となってお互いを祝福しているようだったとも伝えられている。

 結局のところ、テイラー・スウィフトの音楽は、たくさんの人々に愛されていたのだ。とくに同年代の女性の多くが、彼女が歌ってきた夢や失敗、反撃と成長の物語に自分を重ねあわせながら大人になった。

 おとぎばなしに憧れていた少女期から、年齢を重ね、現実を学んで反撃や自己主張に挑戦したり、不条理な転落によって厭世的になったり、政治の重要性に気づきはじめたりする……テイラーが描いてきた女性像は、アメリカの芸能界においては少数派であっても、一般社会では多数派だったのではないか。

 日本での公演も、祝福に満ちたものになるだろう。

2024.02.07(水)
文=辰巳JUNK