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 女性向け風俗、略して女風(じょふう)。知る人ぞ知る世界ではあるが、女性向けに性的、精神的なサービスを提供する店が増加中と聞く。そうした関心の高まりに呼応してか、女風をテーマにしたルポやコミックもよく目にするように。

 マンガ家の水谷緑さんも、そうした女風マンガを、マンガアプリ「Palcy」で連載中。『僕は春をひさぐ~女風セラピストの日常~』では、女風を利用する女性の本音やセラピストの心理などを垣間見ることができる。SNSでも話題となり、2024年春頃に第2巻が刊行予定だ。水谷さんはなぜその世界に興味を持ったのかをうかがってみた。


「ひとつひとつのエピソードは、実際の出来事です」

――これまで、精神科医療を題材にした『こころのナース夜野さん』(小学館)や、ヤングケアラーの苦悩を描いた『私だけ、年を取っているみたいだ』(文藝春秋)などを手がけてきた水谷さんが、女風の世界をお描きになったのにちょっと驚きました。ただ、社会派的な視点を必要とするという意味では、通じる部分もあるようにも思います。女風マンガを描こうと思ったきっかけを教えてください。

水谷緑(以下、水谷) 精神科の取材を7年ぐらいやっていたんですが、内容がシビアなので、精神的にちょっと煮詰まってしまった部分があったんですね。コロナの影響で、直接会ってお話をうかがうことが難しくなったし。

 そんなころに、渡辺ペコさんの『1122』で女風のエピソードを知ったり、前の担当さんから「女風って本当にあるらしいですよ」と聞いたりして、恐る恐る取材を始めたんです。

 お話をうかがいながら感じたのは女風の世界はみんないい意味で自己チューに生きているということ。彼、彼女たちの突き抜けたエネルギーに元気づけられてしまったんです。私自身、女風に抱いていたイメージが一変しました。

――水谷さんと言えば、綿密に取材をされて描く作家さんという印象です。本作ではどんな方に取材をされたんでしょうか。

水谷 女風を利用したことがある女性たちや、セラピストさんたちで40人くらい、女風を経営しているオーナーさんたちやそのお店で10弱くらいでしょうか。私はどうしても現実が好きというか、あまり知られてないことを自分が知りたいというのがありますし、知ったら今度はいろいろな人に伝えたいという、そういう気持ちが強いんですよね。

 このマンガも取材をもとにしたフィクションにしていますが、ひとつひとつのエピソードは実際の出来事なので、リアルなエッセイコミックのように読んでもらってもいいのかなと思います。

2023.11.18(土)
文=三浦天紗子
写真=平松市聖