関西で「肉うどん・そば」といえば「肉吸い」「肉うどん」で有名な「千とせ」をはじめ牛肉を使うのが一般的だ。一方、関東では豚肉を使う店がほとんどである。これは出汁、使用する醤油が違うこと、畜産内容が異なることなどに起因するといわれている。

 ところで東京の大衆そば・立ち食いそば屋で豚肉を使った「肉そば」の名店といえば、墨田区向島などにある極太手切りそばで有名な「角萬」、豊島区長崎(椎名町駅前)にある唯一無二の「南天」、文京区小石川(春日駅すぐ)などにある厚肉で有名な「豊(と)しま」だと思う。

 今回はその「豊しま」で修業した方が千代田区神田小川町に開業した「豊はる」を紹介しようと思う。独自路線の豚肉を使ったメニューを展開し始めたとのこと。

神保町駅に降り立つ

 9月初旬の平日の午前、地下鉄神保町駅をA7出口から地上に出て、神田すずらん通り方向へ進む。喫茶「さぼうる」も健在だ。工事中の「三省堂書店」を左に、移転した「キッチン南海」を見ながら神田錦町の交差点を目指す。

 信号を直進し、右手に明治2年創業の老舗そば屋「神田錦町更科」を見ながら五十通りを約50m直進すると左手に「豊はる」が現れる。駅から徒歩約7分ほどである。

 白い看板に「是れはうまい! 肉そば 関東風」の文字は「豊しま」と共通だ。入店すると、店主の西村歩さんと奥様で女将の千秋さんが笑顔で迎えてくれた。

 店内は天井が高く奥行きがあり、低めのカウンターが並んでいる。衛生的で居心地の良い空間になっている。

うまそうなメニューがずらり

 店の壁にはうまそうなメニューの紹介が並ぶ。「厚肉玉そば」「肉そば」は「豊しま」で培ったメニューである。

 

「独立を認めてくれた豊しまのオーナーの山崎さんには感謝してもしきれません。このメニューは修業した味なのでどうしても提供したかった。でも自分で味の工夫を加えて少しずつ変化しています。きしめんの販売も始めましたし、新しい肉のメニューも始めました」と西村店主は熱く語る。それが「パイカ」を使った新メニュー「元祖パイカ」(500円)、「元祖パイカ玉」(590円)である。食肉の世界では豚バラ軟骨を「パイカ」というそうだ。

2023.09.15(金)
文=坂崎 仁紀