第一回「神谷町小歌舞伎」に向けて 橋之助、福之助、歌之助が意気込みを語る

 夏期講習に夏合宿、学生時代に日々の勉強やトレーニングに加えて自主的にプラスαのメニューに取り組んだところ大きな成果が得られたという経験はありませんか? 演目や役に対する理解や表現スキルを必要とする歌舞伎俳優もまた同様で、昔から夏は自主公演が盛んなのです。

 2023年のトップを切って開催されるのが、中村橋之助さん、福之助さん、歌之助さんご兄弟による「神谷町小歌舞伎」です。

 神谷町とはご兄弟のおじい様である七代目芝翫さんのお住まいに由来する呼称でそこに芝翫家の後継者としての矜持と覚悟が見てとれ、大歌舞伎に対して小歌舞伎と命名したところに謙虚な姿勢が表れています。

 演目は『弁天娘女男白浪』『高坏』で、記念すべき第1回を迎えるに当たって3人からコメントが届きました。

◇中村橋之助さん

「歌舞伎のために!成駒屋のために!」
この想いで始まり、構想からここまで3年の月日がかかりました。我々なりに、劇場へ足を運んでいただく努力、歌舞伎への手引き、できる事は全てして参りました。
あとは、舞台の上で修業の成果を命懸けでお見せするのみです。成駒屋神谷町一門、一所懸命にひとつひとつを大切に勤めてまいります!

◇中村福之助さん

いよいよはじまります。
ここまで出演者一同準備をしてきました。観に来てくださる方々に、感謝の気持ちを込めて3日間勤めたいと思います。

◇中村歌之助さん

夢にみた自主公演がいよいよ開催されます。そして、小さい時から憧れを抱いていた、弁天小僧菊之助を勤めさせていただきます。一回きりで終わるのではなく、この「神谷町小歌舞伎」が「大歌舞伎」への道を歩み出すように、僕にとっても弁天小僧菊之助の第一歩となれるよう、一所懸命勤めたいと思います。

初心者にわかりやすく、楽しい演目

橋之助さんがみどころを語る!

「『弁天娘女男白浪』『高坏』の二題をお目にかけます。

『歌舞伎のチュートリアル公演になれるようなお客様に親切かつ楽しんでいただける公演』を目指し、考えに考えてこの演目を選びました。

歌舞伎らしく、かつ華やかで耳触りが良く、ストーリーも楽しめる。エンターテイメントとして、皆様の明日の励みになれるよう勤めます!

「神谷町小歌舞伎」でしか見られない『ご挨拶』の一幕も設けております。浅草公会堂でお待ちしております」

 『弁天娘女男白浪』で主役の弁天小僧を勤めるのはコメントからもわかるように三男の歌之助さんです。弁天小僧の兄貴分である南郷力丸は次男・福之助さん。そしてふたりが所属する盗賊団“白浪五人男”のリーダー・日本駄右衛門は、この公演の発起人である長男の橋之助さんです。

 供の侍を連れて呉服店にやって来た美しい武家娘が実は女装の盗賊だった! という設定の物語は言葉も平易でわかりやすく痛快な展開。弁天小僧が正体を見破られて居直る場面では歌舞伎屈指の七五調の名せりふも聞くことができ、五人男が勢揃いする場面はまさに動く錦絵というべき華やかさです。

 『高坏』は松羽目ものといわれる舞踊のひとつで、主に買い物を頼まれたちょっとヌケてる次郎冠者が、あざとい商人に目をつけられたゆえに起こる騒動を描いた愉快な物語です。満開の桜をバックに最後は軽快な高下駄タップダンス! を披露してくれます。

 どちらもわかりやすい演目で初心者でも楽しめること間違いなし! 中村梅花さんを始め成駒屋ご一門のお弟子さん、客演の俳優さん一丸となっての公演に期待が膨らみます。

 お父様である芝翫さんの八代目襲名と同時に3人が現在の名を襲名されたのは2016年10月歌舞伎座でのことでした。橋之助さんから「兄弟3人で歌舞伎座のポスターになるのが夢なんです」という言葉を聞いたのはそのずっと前、目をキラキラさせながら熱く語っていた姿が今さらながら思い出されます。

 「神谷町小歌舞伎」の先に広がる未来の大歌舞伎への夢、その実現までの道のりを観客として伴走したなら、必ずや大きな感動が待っているはず! です。

神谷町小歌舞伎

公演期間:2023年6月30日(金)~2023年7月2日(日)
会場:浅草公会堂
演目:『弁天娘女男白浪』/『高杯』
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