人間味溢れる徳川家康の魅力が描かれた、現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」。従来の家康の人物像は、計算高い印象(タヌキ親父!)でしたが、ドラマでは頼りなさを覗かせ、親近感を覚えますよね。

 そんな家康のゆかりの地を巡る旅の舞台は意外にも「静岡」。

 家康といえば三河(愛知県)のイメージが強いですが、実は駿府(静岡県)とも縁がとても深いのです。

 今川氏の人質として7〜19歳までの12年間、江戸幕府を開き将軍の座を秀忠に譲ったのち65〜75歳まで駿府に拠点を置いていました。結果、家康の人生の3分の1は駿府で過ごしていたことになります。

 家康の足跡を辿りながら、絶品のマグロやすき焼きといった豊かな食、さらには絶景を織り交ぜた静岡の旅を案内します。


360度のパノラマ絶景が広がる、日本平夢テラス

 旅の始まりは、JR静岡駅からバスで約40分のところにある「日本平夢テラス」から。標高307メートルの丘に立つ展望台で、富士山、南アルプスの山々といった壮大な景色を楽しむことができます。訪れた日は雲がかかっていて富士山の姿は見えませんでしたが、穏やかで美しい清水港の海を眺めているだけで、大らかな気持ちになります。

 「日本平夢テラス」は2018年11月に誕生し、設計は国立競技場を手がけた隈研吾建築都市設計事務所によるもの。静岡産のスギやヒノキを贅沢に使い、自然に溶け込むような造りになっています。

 3フロアから成る館内は1階が日本平の歴史や成り立ちを紹介する展示場、2階はラウンジ、3階が展望フロアという造り。

 喉を潤すためラウンジに立ち寄りオーダーしたのが抹茶ラテ。静岡の山間にある安倍地区の抹茶に、静岡産牛乳のブランド「みるしず」を合わせたラテで、香り高い抹茶と濃厚なミルクが相まったコク深いおいしさです。

 春はツツジ、秋にはモミジといった四季折々に彩られる庭を眺めながら、ゆったり過ごせるスポットです。

日本平夢テラス

所在地 静岡県静岡市清水区草薙600-1
電話番号 054-340-1172
営業時間 9:00〜17:00(土〜21:00)※展望回廊は終日入場可
定休日 第2火曜日(休日の場合は翌平日が休み)
https://nihondaira-yume-terrace.jp/

ロープウェイで久能山東照宮へ

 「日本平夢テラス」の入り口近くにあるのが日本平ロープウェイ駅。徳川家康の墓がある久能山東照宮に行くには、ロープウェイで日本平から下りるか、久能山下から1,159段の石段を登るかの二択になります。悩むことなくロープウェイに乗り5分もすると到着しました。

 久能山東照宮が創建されたのは元和2(1616)年。家康が「臨終の際は久能山に埋葬を」という遺言を残し、同年4月17日(旧暦/新暦は6月1日)、駿府城で75歳の人生を閉じたその日に久能山に埋葬され、のちに東照宮が造られました。日光東照宮ができたのが1617年なので、最初の東照宮は久能山ということになります。

 今回は取材ということで特別に国宝・御社殿(本殿)に入らせていただくと、壁面や天井に施された彫刻や絵の艶やかさに圧倒されます。

「御社殿は静岡市の国宝であり、400年前のオリジナルの木材が使われています。建物内は漆と金箔で彩られており、漆の塗り直しはこれまで40回行われてきました。古い漆を取りまっさらな白木にしてから26の工程で漆を新たに塗っていきます。これを400年間行ってきた歴史ある木造建造物が御社殿なのです」と久能山東照宮の齋藤曜さん。

 室内には創建当時に描かれた天女など、歴代の職人たちの技術が随所に残っており、匠の技を目の当たりにできる美術館のような建物です。

 御社殿から奥に進んでいくと、家康の遺骸が納められている神廟があります。家康の遺言により西向きに建てられており、理由は、その延長線上に鳳来寺(愛知県)があるからと言われています。鳳来寺は家康の父・松平広忠と母・於大(おだい)が子宝を祈願し、家康を授かったとされる寺。家康は父と母に思いを馳せて、自身の亡骸を安置する場を決めたのかもしれません。

 久能山東照宮からの帰りは1,159段の階段が続く表参道を下りていくことに。歩いているとうっそうと生い茂る木々の合間からマリンブルーの駿河湾の海が見え、下に行くにつれ海景色が広がっていきます。

 階段を下り切ると石鳥居に到着。鳥居をくぐった後に一礼。久能山東照宮を見上げながら、徳川将軍家の心の支えとなっていた歴史の重みをしみじみと感じるのでした。

久能山東照宮

所在地 静岡県静岡市駿河区根古屋390 久能山東照宮社務所
電話番号 054-237-2438
拝観時間 9:00〜17:00
https://www.toshogu.or.jp/

2023.05.17(水)
文=CREA編集部
写真=JR東日本オフィシャル、CREA編集部