繊細な感性で作品を生み出す小説家・大前粟生の初の映画化作品となる『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』で主人公・七森を演じる細田佳央太。「ドラゴン桜」など、繊細な演技で注目される彼の芝居に対する真摯な姿勢に迫る。


●中学までは習い事の延長のような気分だった

——幼い頃に持っていた夢は何ですか?

 小さい頃から乗り物好きで、日曜の夕方前に放送されていたF1レースの中継をよく見ていたこともあり、4〜5歳の頃はカーレーサーになりたかったです。

——4歳のとき、お母さまが芸能事務所に履歴書を送られたとのことですが、細田さん自身の気持ちは?

 「TVの中はどんな構造になっているのか?」という興味はありましたけど、ドラマや映画、芸能界に関しては、まったく興味がなかったです。でも、ゲーム好きだったので、TVで流れるゲームのCMを見て「TVに出られたら、ゲームができるかも?」とは思っていました。

——そして2014年に、俳優デビューされます。

 それまでレッスンを受けながら、首都高のCMやMVといった映像のお仕事をやっていました。いろんなオーディションも受けていましたが、落ちてばかりでしたね。中学生になった頃から、演技のお仕事がちょっとずつ増え始めたのですが、まだまだ大人の人(スタッフ)に言われるがまま、どこか習い事の延長のような感覚でやっていたような気がします。

●ターニングポイントとなった『町田くんの世界』

——その後、1,000人以上の応募の中からオーディションに合格し、『町田くんの世界』(19年)で、関水渚さんとともにW主演を務められます。

 主演ということで、どっぷり撮影に浸ることができましたし、撮影前のロケハンや技術打ち合わせから参加させていただけたりして、お芝居の楽しさ以外のこの仕事の魅力に、やっと気付くことができたんです。そして、シンプルに、この仕事をやり続けたいと思ったんです。そういう意味では、大きなターニングポイントだったと思います。

——そんな転機となった作品のオーディションでのエピソードを教えてください。

 事前に台本をもらって、オーディション当日に会場に行ったのですが、審査する側に監督やプロデューサーといったスタッフさんのほかに、僕ぐらいの年齢の子たちが座っていたことに驚きました。それでやることをやって、「あ、落ちたな」と思っていたら、「細田さん、残れますか?」と言われて、今度は僕が審査する側に座ることになったんです。石井裕也監督によると、ほかの人のお芝居を客観的に見ることが重要だったようで。僕自身もオーディション中に「こんなクセがあるね」とか、石井監督からいろいろ指摘されたのを覚えています。

2023.04.21(金)
文=くれい響
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=岡本健太郎
ヘアメイク=菅野綾香