この記事の連載

適切なジェンダーバランスは時間がかかっても実現するべき課題

――『サンデープロジェクト』は女性スタッフも多かったんですか?

小川 『サンデープロジェクト』はちょっと特殊な番組で、スタジオ進行の意思決定にかかわるメンバーに女性スタッフが多かったんです。男性よりはちょっと少なかったように思いますけど、6:4くらいだと思います。結構女性もはっきり物申す方が多くて、田原さんに対しても「それはちょっと言い過ぎです」とか「それはやめてください」とかおっしゃるような方が番組を担当していて、そうした女性に触発された部分は本当に大きかったですね。

――女性が頑張っている姿が周囲の女性を鼓舞するという部分はあるでしょうね。

小川 しっかり自分の意見が言えて、それでいて、身だしなみも含め女性らしさを忘れず、すごくご自身を律していらっしゃるように感じる女性がいて、純粋にかっこいいなと思いましたね。

 先輩にはずっと背中を押していただいていました。私が人間関係にくよくよ悩んでいたことがあったんですけど、その時、「大丈夫、大丈夫。最初は『自分がいなくなればいいんじゃないか』って思うけど、長く続けていれば、だんだん相手の方がいなくなっていくから」ってバーンと言ってもらって。自分の中には一切ない考え方だったのでぎょっとしましたが(笑)、その言葉にハッとさせられて、パワフルに続けていくことの大切さを教えていただいたように感じます。

――最近ではかなり状況が改善されているとはいえ、世界的に見ればいまだに日本は女性が働きにくい国だとされています。お二人は、どのような部分を変えていくべきだとお考えですか?

 これはあくまでNHKの話になりますが、NHKは、まず、視聴者のみなさまにお届けするコンテンツについて、社会を反映する形で多様性を確保するよう取り組んでいます。

 男性中心、女性中心の分野・ジャンルもあると思うのですが、番組では様々なジェンダーの方に出演していただくとか、キャスターは必ずしも男性が主、女性が従としないとか。もちろん常にそれが実現できるわけではありませんが、その面での改善はかなりされてきていると思います。

――女性キャスターが一人で報道番組を進行している姿をずいぶん見るようになりました。

 そうですよね。英国の公共放送BBCが他の放送局にも声をかけて、番組に出演するキャスターや専門家などの男女比を50%ずつにすることを目指す「50:50(フィフティー・フィフティー)The Equality Project」という取り組みを続けているのですが、NHKもその一員として同じ取り組みを進めています。

 同時に、コンテンツだけではなく、自分たちの組織も改善を進めなければいけないよね、それは車の両輪だよねと。私は人事担当理事でもあり、ダイバーシティ推進担当理事でもありました。ジェンダーバランスでいうと、採用は女性が半数になりました。今後は意思決定の場への女性登用も、もっと進めたいと考えています。

小川 そういう場でのジェンダーバランスは重要だと思います。

 そのためには長期的な目線で女性が育つ環境にすることにも意識的に取り組んでいます。いずれは、男性とか女性とか意識しなくても、能力のある人が自然な形でそういう場に出て活躍できるようになるのが理想なんですけど。

小川 確かに、「そもそも女性が少ないから、登用できる人材がいないんだよね」っていうふうに言われること、結構多いですよね。そもそもの男女の比率が違うからって。

 ジェンダーバランスだけを過度に意識して登用しても、本人にとって不利益になるようでは意味がありませんし。じゃあ今のままでいいのかといえばそうではなく、ジェンダーに関係なく、能力のある人をきちんと登用できる組織にしていくことが大事です。

 そのためにNHKではこの2年あまり、人事制度改革に取り組んでいて、採用から退職まで全部を変えました。年功序列を見直したりね。少しずつですが、能力のある人はジェンダーも年齢も関係なく、どんどん活躍してもらえる環境を整えています。

小川 管理職のコンサルタントをなさっている方とお話をしたことがあるんですが、女性の管理職に対する研修が必要だとおっしゃっていましたね。周囲の意識も変えていかなければいけませんが、管理職になったことでさまざまなプレッシャーやストレスを感じる女性管理職の意識も整え、自信や自尊心を守っていくためのスキルも身に着けてもらう必要があると。

 確かにそうですね。女性の多くは「いえいえ、私なんて」と尻込みする傾向があると言われています。まさに今おっしゃったように、まず自分に自信を持ってもらうことが大きな課題なんですね。NHKでも、将来のマネジメントを担う人のための研修を行っているのですが、募集をしても、女性の応募者の数が少なかったりするんですよ。

小川 やはり、女性は躊躇しがちなのでしょうか。

 もうちょっと気楽な気持ちで手を挙げてほしい、エントリーしてもらいたいって思うんですけど、もう少し時間がかかるかもしれませんね。

2022.10.07(金)
文=張替裕子
写真=杉山秀樹