●愛する人との乗り越えなければいけない壁を描く『フタリノセカイ』

――20年には<劇場版>も公開された黒沢清監督による、ドラマ「スパイの妻」では、高橋一生さん演じる主人公の甥役を演じ、強い印象を残しました。

 とても難しい役でしたが、ベテランの方たちと一緒にお芝居できる貴重で贅沢な時間でした。そして、ここで結果を残さなきゃいけないという気持ちが、とても強い現場でした。じつは、この役をキャスティングしてくださった方は、「花へんろ」を見たことがきっかけだったようなんです。

 あと、いろんな方とお会いしたり、先輩方とご飯を食べているときに「『スパイの妻』良かったよ」と言ってくださることが多いですし、しっかり繋がっているんだなと思いました。もっと、いろんな映画に出てみたいと思うきっかけになった作品でもあります。

――21年10月期には、「真犯人フラグ」「この初恋はフィクションです」「ソロモンの偽証」という3本のドラマで、まったく違うキャラクターを演じられました。

 どれも違う役どころということもあり、「あまり同じ人に見えない」と言っていただけることが多くて、とても喜んでいます。「初恋」と「ソロモン」は高校生役ですけど、自分で見ても「あれっ?」となるぐらいです(笑)。その役をその作品に必要な表現の仕方で演じる、生きるという、演じるということの心構えに関しては、どの作品に入るときも一緒なんですけどね。

――片山友希さんとのW主演作となる『フタリノセカイ』では、トランスジェンダーの真也という自らと異なるセクシャリティの役に挑まれました。

 W主演が決まったときは嬉しかったのですが、「心は男性で女性を好きになる。けれど、戸籍上の性別は女性」という役どころと聞いて、正直「これは難しいな」と。根本的な部分は変わらないのに、身体のことがあるだけで、ひとつひとつ乗り越えなければいけない壁が出てくる。胸はあるが、性器が付いていないといった真也の気持ちをリアルに感じなければいけないと、とにかく思いました。

 その後、トランスジェンダーである飯塚花笑監督や実際のカップルから話を聞いたり、バーに行ったり、クランクイン前の経験から、真也がいろんなことに対し、葛藤して戦って生きていることを実感することができました。

●目指すは、その役が生きているように見える役者

――相手役の片山さんとの距離感については、どのように作られていかれましたか?

 撮影の2年ぐらい前に、岩松了さんの舞台「三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?」で、一度共演させていただいていたんです。今回は信頼関係が大事な役どころなので、「知り合いで良かった!」と思いました(笑)。そうやって、いろいろクリアになった状態で、現場に入ることができたこともあって、演じながら、あまり悩むことはありませんでしたし、真也の濃密な10年間を演じることができました。

――今回、どんな新しい坂東さんが観られると思いますか?

 TVドラマでやっているお芝居のトーンとは、ちょっと違うと思います。と言いますか、この作品では“演じている感じ”を出したくなかったんです。素晴らしい脚本と監督の演出で素晴らしい映画になると分かっていたので、性格や人格を表す声のトーンにも細心の注意を払いましたし、真也がそこに存在している感じを出したかったんです。そのため、いかに芝居しないか、ということを心がけました。

――今後の目標や展望について教えてください。

 どの役を演じても、その役が生きているように見える役者。坂東龍汰が演じているこの役じゃなくて、そこに生きているこの人と思わせるような役者になりたいと思います。自分が映画を観ているときも、この人が演じているということをフッ飛ばして、その役だけを見つめてしまうという瞬間があるんです。そうやって、観ている人が入り込めるお芝居に憧れますね。

 最近観た映画だと、『しあわせの絵の具/愛を描く人 モード・ルイス』のサリー・ホーキンスとイーサン・ホーク。「どれだけ考え、どれだけ準備したら、ここまでできるんだろう?」と考えただけで汗をかきそうな気がしました(笑)。もっともっと勉強して、新しいアプローチを試していくことで、日々精進できればいいと思っています。

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坂東龍汰(ばんどう・りょうた)

1997年5月24日生まれ。北海道出身。2017年俳優デビューし、翌18 年 NHK スペシャルドラマ「花へんろ 特別編 春子の人形」で主演。その後、『十二人の死にたい子どもたち』(19年)、『閉鎖病棟―それぞれの朝―』(19年)、『スパイの妻』(20年)などに出演。公開待機作に、『峠 最後のサムライ』(22年公開予定)がある。

映画『フタリノセカイ』

出会ったときから互いに惹かれあった、トランスジェンダーの真也(坂東龍汰)とユイ(片山友希)。恋愛し、いずれ結婚して家族をつくり、共に人生を歩んでいきたいという願い。だが、その願いを叶えるには、ひとつひとつクリアしなくてはならない現実があった。

https://www.futarinosekai.com/
2022年1月14日(金)より新宿シネマカリテほか、全国順次ロードショー

Column

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2022.01.14(金)
文=くれい 響
撮影=平松市聖