現在公開中の映画『おもいで写眞』は、東京で夢破れて地元の富山に戻ったヒロインが、お年寄りたちの思い出の場所で写真を撮影する仕事を始めたことで、次第に自分の居場所と生きる喜びを見出していくヒューマンドラマ。

 芸能事務所テンカラットの設立25周年を記念して企画された作品で、主人公の結子を深川麻衣さんが演じ、事務所の先輩でもある高良健吾さんが、町役場で働く結子の幼馴染の一郎に扮している。

 地元を愛してやまない一郎は、常々、故郷である熊本への熱い想いを語ってきた高良さん自身とも通じる役柄。心地いい低音の声で丁寧に言葉を選びながらも、学生時代の思い出に話が及ぶとふっと子供のような笑顔を見せる。硬派な映画人の柔らかな素顔に迫った。


考えを押し付ける人には、なりたくない

――出演者がほとんど同じ事務所の俳優というのは、珍しい現場ですね?

 まず自分が所属している事務所が映画を作るということ自体素敵だと思ったし、その作品に声をかけてもらえたことはすごくありがたかったです。

 うちの事務所の場合、コロナ禍になる前は新年会や忘年会をしていたので、俳優同士での交流はありましたし、作品が終わっても続いていく関係性という、なんとなくの仲間意識はあたったんです。

 今回共演した深川さんに対しても、同じ事務所だからこそ気に掛けるポイントが違うというか。すごく単純なことなんですよ。「昨日ちゃんと飯食べたかな?」とか、そのレベル(笑)。

 今回はオール富山ロケだったのですが、みんなが泊まっているホテルも一緒だったので、現場が終わった人はホテルの隣の居酒屋に集合して、よく海の幸を食べたりお酒を飲んだりしました。事務所のみんなでお寿司を食べにいったことも。そういうのはすごく楽しかったですね。

――今回は熊澤尚人監督のオリジナル脚本。物語に感じた魅力は?

 主人公の結子は、誰の価値観も大切にできないキャラクターなんです。相手の「らしさ」を無視して、自分の価値観や信じているものを押し付けてしまう。そういう女性が、目の前にいる人の大切にしていることを尊重できるようになっていく物語だったので、そこがすごく魅力的だと思いました。

 監督の熊澤さんとの出会いは10代の時。まだ熊本から東京に通っていた高校生だった頃、事務所の方が紹介してくれたのが最初でした。出会いから相当時間が経って、やっと一緒に作品を作ることができることが嬉しかったですね。

――後輩の深川さんに、現場で何かアドバイスは?

 彼女は僕が何かアドバイスをしなくても自分で気づける人なので、特にアドバイスはしなかったと思います。だんだん結子に近づいていく姿を一郎として目の前で見られたことは僕にとってもいい経験だったし、楽しかったですね。

 現場では「今すごく悔しいんだろうな〜」とか、顔に出るのでわかりやすいんですよ。そういう部分も微笑ましかったです。

――香里奈さんや井浦新さんなど、先輩方も出演されています。

 僕はすごく先輩たちに恵まれていると思います。新さんや香里奈さんはもちろん、自分が素敵だなと思う人たちは、スタッフさんや共演者の人たちみんなが動きやすい環境を作ってくれるというか。現場を包み込むような姿を見てきているから、後輩の深川さんに対してもやりやすい環境を作りたいなと思っていました。

 存在が威圧的だったり、相手の芝居を変えようとしたり、自分の考えを一方的に押し付ける人ではありたくないですから。

2021.02.13(土)
文=松山 梢
撮影=佐藤 亘