人前で表現することにずっと渇望している。それが主人公との共通点。

ニット34,000円/LAD MUSICIAN(LAD MUSICIAN HARAJUKU)
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 また新たに、ボクシング映画の名作が誕生した。森山未來さん主演の『アンダードッグ』だ。

 「僕はもともと格闘技を見る人間でもやる人間でもないんです。これまでは大晦日も格闘技番組じゃなく“ガキ使”を見てましたし(笑)。

 今回は『百円の恋』を手がけた武正晴さんが監督、足立紳さんが脚本を担当すると聞いて絶対に関わってみたいという思いがありました」

 演じた元日本ランカーの末永晃は、かませ犬“アンダードッグ”としてリングに上がり続け、ボクシングにしがみつく崖っぷちボクサー。

 妻が去り、ジムの会長にも見放されるどん底の晃のドラマは、つい目を背けたくなってしまうほど。

「足立さんのオリジナル脚本を読んだ時、正直しんどいなと思いました。『もう少しライトでもいいんじゃないですか?』と伝えたんですけどね」

 ボクシングだけでは生活ができないのに、殴り、殴られ、なぜリングにすがりつくのか。晃のメンタルについて考え、ある答えが出た。

 「晃の場合は、昔リングの上で観客の目線や声を浴びながら勝っていた時代があるわけです。

 その快感に対してすごく欲求があるというか、アディクティブになっている人なんだろうなっていうのは感じました。至近距離で肌と肌がぶつかり合う世界って、ある意味人間の根源的なコミュニケーションだと思うから。

 一方で僕も、舞台に立つことだったり、人の前で何か表現することに対しては、ずっと渇望している感覚がある。そこの共通点はあると思いました」

アプローチを変えた役作り

 これまで役作りのために無人島で生活をしたり、野宿をするなど様々な伝説がある森山さん。

 もちろん今回もボクシングの練習はストイックに行ったものの、それ以外のアプローチは、これまでと違ったよう。

 「もちろん生活を変えればメンタルも表情も変わるから、今もそういう方法っていいなと思うんです。でも自分自身を全部取り払ってアイデンティティを空虚にしてしまうことを、あまりやりたくないと思うタイミングがあって。

 それよりも、森山として歩きながらその場にいて、言葉を発して存在できれば今はいいんじゃないかなと思っていて。

 普段の生活を大切にできて、経済的にも困らず、表現の質が担保できたら、それは最高なことですよね(笑)。そのバランスをちゃんと見つめていられることが大事なのかなって思っています」

 激しいボクシングシーンが満載の本作。「CREAの読者は見に来てくれるかな~」と苦笑いした森山さん。

 とはいえ、夢を諦めず、不器用ながらも戦い続ける姿は、きっと多くの女性が心惹かれるはずだ。

「晃は運に見放された男ですけど、誰かのせいにするわけでもないし、基本的には語らない。寡黙なかっこよさはあるかもしれないですね。でもこの人、酔って話し始めたら、めっちゃ面倒くさそうですよ(笑)」

森山未來(もりやま みらい)

1984年生まれ、兵庫県出身。1999年に舞台で本格デビューし、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)、『モテキ』(11)、『セイジ─陸の魚─』(12)、『苦役列車』(12)、『怒り』(16)など話題作に多数出演。13年から1年間はイスラエルのダンスカンパニーで学び、現在はダンサーとしても活躍中。

映画『アンダードッグ』

崖っぷちボクサーの末永晃(森山)の前に現れたのは、夢あふれる天才ボクサーの大村龍太(北村匠海)と、夢も笑いも半人前な芸人ボクサーの宮木瞬(勝地涼)だった。全国公開中。
©2020「アンダードッグ」製作委員会
https://underdog-movie.jp/

※掲載情報は新型コロナ感染拡大の状況により変更の可能性があります。最新情報は公式サイトなどをご確認ください。

Column

C&C インタビュー

今月のカルチャー最前線。一押しの映画や舞台などに登場する俳優にお話を聞いています。

2020.12.07(月)
文=松山 梢
撮影=佐藤 亘
スタイリング=杉山まゆみ
ヘア&メイクアップ=須賀元子

CREA 2021年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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思いもかけない日々となった2020年。いつもと違う毎日のなかで新しい習慣ともなんとか付き合ったり、戸惑うこともあったと思います。思い通りに会えない日々が続いても、贈りものという形で気持ちを届けたい――。誰もが頑張った一年と、新しい明日に贈る、感謝とご褒美、ときどきエール。いろいろな想いをギフトにして届けます。