赤道を越えた南太平洋に、“楽園”という響きが世界でいちばん似合う島々がある。
19世紀後半から20世紀にかけて、欧州の画家やシンガーなどアートに心捧げた人々は、文明によって失われた楽園を求め、タヒチを目指した。
彼らを惹きつけてやまなかった何かを探しに、タヒチの島々――ボラボラ島、ファカラバ島、マルケサス諸島のヒバオア島、タヒチ島へ渡った。
マティス・ブルーを生んだ?
ファカラバの澄みわたる青
ボラボラ島やタヒチ島があるソシエテ諸島は“ザ・タヒチ”的な緑の高峰とラグーンが織りなすコントラストが印象的。
それに対し、ツアモツ諸島は海面すれすれの島々がネックレス状に連なり、遮るもののない大きな空が広がる。
タヒチ島から北東へ約450キロに位置するツアモツ諸島のひとつ、ファカラバは、フレンチポリネシアで2番目に大きな環礁。
島々の連なる環礁は全長約60キロもあるけれども、陸地の総面積はわずか15平方キロメートル、およそ渋谷区ほどしかない。
人口は806人。ちなみに、渋谷のスクランブル交差点の1回の青信号で横断する人数は約3000人だとか。
無垢な自然がたっぷりと残るファカラバは、ユネスコの生物圏保護区に認定されている。
特に水面下の魚影の濃さは超絶モノで、ダイバーにとってのパラダイス。群れのサイズが大きく、それこそ渋谷のスクランブル交差点よりもぎゅうぎゅうに魚たちが密集している。
“色彩の魔術師”との異名をとるアンリ・マティスが、この環礁へ訪れたのは1930年ごろ。
ファカラバの海と空の色は、きっとマティスの記憶のどこかに刻まれていたのだろう。晩年の作品『ブルー・ヌード』のような、明るく深いブルーの空と海に包まれている。
滞在の拠点は、「北ファカラバ」と「南ファカラバ」に分かれる。
北の中心地のロトアヴァは宿の選択肢が多く、島民とのふれあいも楽しめる。
一方、南のテタマヌは素朴なダイビングリゾートが1軒あるのみ、沖に浮かぶピンクサンド・アイランドが絶景だ。
2019.09.01(日)
文・撮影=古関千恵子