【今月のこの1枚】
ジョン・エヴァレット・ミレイ『滝』
ラスキン生誕200年記念
『ラファエル前派の軌跡展』より
自然と日常への愛、濃やかな観察眼
進取の気性を観よ!
それは英国的な、あまりに英国的な絵画です。
ジョン・エヴァレット・ミレイ による《滝》。何がそんなに英国的かといえば、まずは自然の描写のしかた。
画面上方にある草木が、それはそれは丁寧に描かれているのが見てとれますね。手前の岩肌も、なんとも几帳面に写し取られています。
あるがままの自然を愛し、また観察を旨とし経験を重視する英国人の本領が、ここによく表れています。
人物の描き方も、そう。女性の個性を強調することなどしませんし、この瞬間をことさら劇的な場面にしようとの意図も感じられません。平生の暮らしを大切にする英国的心性が、色濃く反映されているのでしょう。
人間の存在を特別視せず、自然と馴染ませ一体化させんとしているのも、ぜひ着目したいところです。
自然や日常を愛するこうした国民性は、日本のそれと近しいものがあるように思えます。
だからこそ思うのです。このミレイをはじめとして、今展のテーマとなっているラファエル前派の活動や作品が、日本でよりよく味わわれていいのではないかと。
ラファエル前派とは、ミレイ、ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハントらによって、1848年に結成されたアーティスト集団の名。
産業革命を経て社会が大きく動いていた当時、美術の世界でも伝統的な「アカデミー」絵画を打破すべしと、行動を起こしたのが彼らでした。
究極のお手本とされていたルネサンス期の巨匠ラファエロを超えるべく、ラファエロ以前の素朴で誠実な美術へ戻ろうとしたのでした。
人々が織りなす素朴なふるまい、そこで生まれる感情、人生のストーリーを写し取ろうとしたラファエル前派の進取の気性もまた、英国らしさの発露といえましょう。
19世紀の美術潮流といえば、フランスで勃興した印象派が最も知られますが、ひと足早く英国にラファエル前派が現れて、大きく流れを変えたことは、もっと注目されてしかるべきです。
自然を愛でて、日常に目を向け、徹底した観察から時代を切り拓こうと模索したラファエル前派の為したこと、ぜひ作品の実物と向かい合って読み取ってみては。
ラスキン生誕200年記念
『ラファエル前派の軌跡展』
19世紀半ばに英国で活動した「ラファエル前派」と後続の作家たちが残した作品群を一堂に集めた。彼らを擁護し、理論面から支え導いた評論家ジョン・ラスキンの生誕200年を記念して企画された。
会場 三菱一号館美術館(東京・丸の内)
会期 開催中~2019年6月9日(日)
料金 一般 1,700円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
https://mimt.jp/ppr/
2019.05.02(木)
文=山内宏泰