場所はアラビア湾に面したアラブ首長国連邦(UAE)の首都、アブ ダビ。古来より文明が交わる地に現れた美術館は革新的な視点をもち、心打つ美の系譜を伝える。


海に浮かぶ美術館都市で
“人類の物語”を旅する

●Louvre Abu Dhabi
(ルーヴル・アブ ダビ)

建物を覆う巨大なドームは日中、館内に光の雨を降らし、夜は空へ向け星の光を放つ。

 力強い太陽の下、アラビア湾は青く澄み渡り、岸辺には超高層ビルやモスクが立ち並ぶ。その海上にルーヴル・アブ ダビは誕生した。

 当地の伝統的な家並みを思わせる白い建物の群れは、波間へと棟を広げ、巨大な鋼鉄のドームに覆われる。どこか蜃気楼のような趣も漂う佇まいだ。

メインフロアの中央に設けられた広場「Plaza」はアラビア海へと繫がる。

 UAEを構成する7首長国のひとつであるアブ ダビは長年、石油に依存しない国造りを推進してきた。

 建国の父、シェイク・ザーイド・ビン・スルターン・アル・ナヒヤーン前大統領は国の未来を見据え、投資や事業を積極的に拡大。

海上のエントランスへ続くアプローチ。表情は刻々と変化する。

 前大統領の国家構想は今も受け継がれ、一環として、現在、サーディヤット島では世界の名門美術館も集う文化地区の開発が進む。この計画でルーヴルは最初に開館した美術館となった。

エントランス。

 UAEとフランスの国家間プロジェクトであるルーヴル・アブダビに関しては、30年間にわたる美術館名の使用、フランスの国有作品の借り受けなどが締結されている。

 しかし、「パリのコピーではない」と本家ルーヴルが告げるように、打ち出すスタイルは独自の理念に基づくものだ。

ドームは直径180m。重量はエッフェル塔をしのぐ7,500t。エネルギー消費の削減にも役立っている。

 設計を手がけたフランスの名建築家、ジャン・ヌーヴェルは、アラブの伝統様式にインスピレーションを得たという。

 確かに、55棟の四角い建物が連結する美術館は、低層家屋が密接に組み合うマディナ(旧市街)の面影を宿している。

 建築群が頂く網状のドームは8層を重ねることで、7,850個もの編み目を生み出した。

 星形の編み目は灼熱の陽射しを和らげて透かし、白一色の建物に光の雨や木漏れ日をもたらす。日の傾きと共に移ろう幾何学的な光と影。それはイスラムの文様を彷彿とさせる。

様々な名句が館内外の空間を飾る。

 常設展ではフランスが誇る芸術遺産や名作のみならず、各国で収集したコレクションも数多く交える。ここで繰り広げられるのは、遥か先史時代から現代へと至る人類の物語。

 ルーヴル・アブ ダビは「ユニバーサルな美術館」を使命として、多様性と共通点を重んじ、地域や文明、信仰を超えた視点で歴史を解き明かしていく。

 そして、探り求めた普遍的な美のありかを示しつつ、訪れる者の心に問いかける。

この美術館の依頼でジェニー・ホルツァーが制作したインスタレーション《ルーヴル・アブ ダビへ》。作品はメソポタミアの創造神話(楔形文字)、イブン・ハルドゥーン著『歴史序説』(アラビア語)、モンテーニュ著『エセー』(フランス語)の三部作となる。

 鑑賞を堪能できるミュージアムシティでありたいと願って設計された館内は、安らかで居心地がいい。

 降り注ぐ光、オアシスの雰囲気に満ちた空間にも気持ちが解き放たれる。ドームでまたたく星に導かれ、壮大な人類の歩みを辿っていきたい。

美術館が面するアラビア湾の夕暮れ。

Louvre Abu Dhabi
(ルーヴル・アブダビ)

所在地 Saadiyat Cultural District, Abu Dhabi
電話番号 600-565-566
開館時間 10:00~20:00(木・金曜 ~22:00)
休館日 月曜
入館料 63UAEディルハム
https://www.louvreabudhabi.ae/

 

Text=Masami Uwabo
Photo=Koichi Imabayashi
Coordination=Hideo Teramoto

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