ジェラートと魚料理のマリアージュ

 イタリアで今、密かなブームになりつつあるという「ガストロノミー・ジェラート」。

 ガストロノミーなジェラートって、「わさびジェラート」とか「秋刀魚のジェラート」みたいな、おかず素材を使った変わりアイスクリームのこと? それなら日本にもあるじゃない?? と思いきや、どうやらそれとは違うようです。

 イタリアのスターシェフたちが注目し、取り入れ始めている「ガストロノミー・ジェラート」とは、ジェラートを料理の主役やパーツとして使う手法だそう。

「カルピジャーニ・ジェラート大学」のシェフ、クリスティアン・ボンフィリオーニ氏(左)とミシュラン1ツ星レストラン「グイド」のシェフ、ジャンパオロ・ラスキ氏(右)。写真提供=カルピジャーニ

 エミリア・ロマーニャ州リミニのミシュラン1ツ星レストラン「グイド」と、ジェラートマシンのトップメーカー「カルピジャーニ」のコラボディナーでガストロノミー・ジェラートのフルコースが体験できるとのお誘い、さっそく行ってきました。

 2018年7月17日、会場はボローニャ郊外の「イータリーワールドFICO(フィーコ)」。

 2017年11月にオープンしたこちら、総面積10万平方メートルという巨大スペースに、イータリーお馴染みの高品質郷土食品ショップやレストラン、イートスペースがぎっしり並んでいるだけではありません。

 牛に羊に鶏など約200匹もの動物がいる擬似農場や、農家で食べ物がどのように生まれ、食卓へやってくるかを学べるスペース、チーズや生ハムなどの生産者による常設ワークショップなども。イタリアを代表する食の生産現場を見て、体験できるという、まさに食のアミューズメントパーク的存在です。

 このFICO内に支店がある魚料理の名店「グイド」のシェフ、ジャンパオロ・ラスキ氏が、ジェラートと魚の組み合わせに腕をふるってくれるそうですが、ジェラートと魚料理っていったいどんな感じ?? 期待と同時にはてなマークが頭に広がります。

“パルミジャーノチーズのジェラート バルサミコ酢と車海老のチップス”。

 さて、席につき、最初にいわゆる星付きレストラン的ミニマムでおしゃれなアミューズがサービスされた後、まずは“パルミジャーノチーズのジェラート バルサミコ酢と車海老のチップス”。

 チーズを使ったジェラートは、最近ではそれほど珍しい感じはありません。でも車海老の旨み、チーズの甘みや塩味、そして地元モデナの伝統製法で作られたバルサミコ酢の味が一体となって口の中で混ざり合い、溶け合い、とてもいい感じです。

 魚料理とチーズは合わせないのが料理界の常識ですが、タブーに敢えて挑戦し、二つの素材の魅力をマッチさせるため、パルミジャーノチーズは22カ月熟成の比較的軽いタイプを選んだということ。闇雲に高級品ばかりを並べ立てないあたり、シェフの余裕と才能が感じられます。

“カタクチイワシのマリネを巻き込んだカンタレッリ 赤タマネギと赤ワインヴィネガーのジェラート”。

 そして満を持して登場したプリモピアットが“カタクチイワシのマリネを巻き込んだカンタレッリ 赤タマネギと赤ワインヴィネガーのジェラート”。

 カンタレッリとは、エミリア・ロマーニャ地方名物ピアディーナ(薄焼きパンのようなもの)をより柔らかく焼いたもので、地元の人は、一家に一台カンタレッリ焼き器を持っているという、いわば大阪人のたこ焼き的存在!? クレープにも似た感じの粉物です。

 そんなファストフード的カンタレッリにお得意の魚料理を巻き込み、プリモピアットに仕立ててくれました。カンタレッリの白、ジェラートのショッキングピンク、葉野菜のグリーンがあまりにも美しくてうっとりですが、溶けないうちにと急いでいただくと、あまりの鮮烈な美味しさにびっくり!

 酸味の効いたカタクチイワシはあくまでも新鮮で身も厚く、シェフの魚料理に対する眼力、力量がうかがえる味わいです。

 そこに合わせたピンク色の甘酸っぱいジェラートは、口の中で溶けながら赤タマネギとヴィネガーの風味となって広がり、冷たいジェラートなんだけど、ソースの役割も果たしていて、なんだこりゃ! という驚きの美味しさ。

 こんな料理食べたことない、と思いながら顔を上げると、限定30名のテーブル全員が、美味しい顔になっているのに遭遇。その日のボローニャは、奇しくも30度を超える酷暑な1日。冷たくて酸っぱくて爽やかで、まさに暑い夏にぴったりのレシピを体感したのでした。

“ニベのグリル オランデーズソースと黒トリュフ風味のジェラート”。写真提供=カルピジャーニ

 最後のお料理は“ニベのグリル オランデーズソースと黒トリュフ風味のジェラート”。

 イタリア語でオンブリーナと呼ばれるスズキ目の魚ニベ、皮をパリッと仕上げたグリルはそれだけでも美味しいのに、ふんわり甘めのオランデーズソースと、黒トリュフ風味のジェラートを魚用スプーンの上で混ぜ合わせて口に運べば、ジェラートとソースの甘み、魚の旨みと塩味と黒トリュフの風味が見事に混ざり合います。

 温かい温度の中でこそ香りが立ってくるトリュフを冷たいジェラートに仕立てるのに、苦労と実験を重ねたというシェフのコメントが印象でした。

 ジェラートを料理に取り込むことで、ジェラートを食べながら、同時にソースやクリームや薬味のような役割も兼ねるガストロノミー・ジェラート。口の中で「冷たい!」と「熱々」がいっぺんに味わえるのはもちろん、噛むごとに二つが口の中で混ざり合い、とろけ合う感覚は今までにない楽しさです。

 さて、今回いただいた料理の数々は、あくまでも実験ディナーだったため、今現在「グイド」に行っても食べることはできません。ジェラートの温度と品質の管理は思う以上に難しいため、クオリティを落とさずサービスするためにはそれなりの準備、設備が必要だからとか。

 でも大好評を博したので、近い将来必ずメニューに登場することでしょう。そして「グイド」以外にも、例えばミラノの「ド」「コントラステ」など、ジェラートを料理に取り入れるレストラン、シェフはどんどん増えています。

 次回のイタリア旅行では、どこかでガストロノミー・ジェラートが体験できるかもしれませんね!?

宮本さやか(みやもと さやか)

トリノ在住フードライター。トリノ郊外の森の中に暮らし、食べること、料理すること、犬猫と遊ぶことに大忙しの毎日を22年続けています。
●ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン」
http://madamin.cocolog-nifty.com/blog/

文・撮影=宮本さやか