「頭でっかち」になっていませんか?

 日本美術はもともと、屏風や襖絵のように、生活の中にあるものとして発展してきたのを、明治以降、西洋化&近代化の過程で「美術」と「工芸」を分けたことから混乱が生じた。以来、約100年を経て、その整理や再編が始まっている。金沢21世紀美術館で開催中の「工芸未来派」展は、そうした工芸のあり方、工芸をめぐる状況について、現代美術の側からの問題提起として企画された。

野口春美
展示風景 撮影:渡邉修

 金沢といえば、加賀・前田家のお膝元として、経済的な繁栄だけでなく、文化が大いに振興された街だ。茶の湯が市民の間に普及し、花街にはいまだに旦那衆の粋な遊びの伝統が息づいている。その生活を支えてきた、加賀友禅、金沢九谷、加賀繍、漆器、水引、和傘、象嵌などの工芸と練達の職人は、現在もこの街で活躍を続けている。

中村康平
展示風景 撮影:渡邉修

 この工芸の牙城たる金沢の中心部で、創立以来8年間、金沢21世紀美術館は意欲的な展覧会と市民への普及活動で、全国の注目を集めてきた。だからこそ、というべきか、ならでは、というべきか、今展では金沢21世紀美術館館長の秋元雄史氏がキュレーターを務め、工芸が近代化する過程で、消極的に扱うようになった要素を持つ作品、そして現代美術的な展開をしている作品を選び、現代美術の立場から見た工芸の新しい解釈、可能性を提示している。

 現代美術の母胎となっている西洋の近代美術は、なにより「コンセプト」「文脈」を重視する。観念がまず先にあり、それが表現や素材や技術を引き寄せることで、「美術」作品が生まれる、というのが、彼らの考え方だ。ところがそれに対して日本の工芸は、素材や技術が先にあり、それが表現を引き寄せる、というプロセスから作品が生み出されてきた。

「頭でっかち」なコンセプト至上主義はなにも、美術だけの問題ではない。世界中のあらゆる場所で、リアルな身体的実感が置き去りにされ、見たこと・考えたことが優位になりつつある。そうした、バーチャルな情報の操作だけで事足れりとしてしまうことの弊害は、たとえば人間の身の丈を超えた技術の運用に失敗した、東京電力福島第一原子力発電所の事故でも明らかだろう。

 その現代日本にあって、リアルな「もの」から決して離れることのない、「非近代」的なあり方を守る工芸という存在が、行き詰まった「近代」を相対化し、風穴を開ける契機となるかもしれない。もちろん近代・現代美術についても、同じことが言える。そしてまた違う形で問題を山積させてきた工芸も、近代・現代美術とあらためて正面から向かい合い、対話することで、新しい局面が見えてくるかも知れない、そんな希望と変化の予兆を感じさせる展覧会だ。

「工芸未来派」展
会期 4月28日(土)~8月31日(金)
休館日 月曜日(ただし、4月30日、7月16日、8月13日は開場)、7月17日(火)
開館時間 10:00~18:00 (金・土曜日は20:00まで)
料金 一般1000円
URL www.kanazawa21.jp (金沢21世紀美術館のトップページへリンク)
問い合わせ 076-220-2800

 

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2012.06.23(土)