vol.29 鹿児島(1)
鹿児島市には、この街でしかその美味を体験できない名店が、三軒ある。
割烹「山映」、イタリア料理「Cainoya」、寿司と割烹の「名山きみや」である。
今回ご紹介するのは、そのうちの一軒、鹿児島市内の名山町にある、「名山きみや」。
店は、兄弟で切り盛りされており、兄が割烹料理を手がけ、弟が寿司を握る。それぞれが、日本料理と寿司の修業をして、鹿児島で店を一緒に始めることになったという。
酒のつまみと寿司を交互に出す店はあっても、本格的な日本料理と寿司を交互に出す店は、僕の知る限り他にはない。しかもその双方が創意工夫に溢れ、魚種が多く、陸の産物も豊かな鹿児島の恵みを活かしている。
それではその19皿にわたる、めくるめく世界を紹介しよう。
(1) 知覧茶「彩緑」
始まりはいつも、一杯のお茶を注がれる。じっくりと水出しされた今回のお茶は、知覧茶の「彩緑」だった。甘い。心ほぐれる素晴らしきスタートである。
(2) 鹿児島醤油で炙った平貝の浅草海苔巻き
貝の甘味が濃い。
(3) 屋久島キンメ握り
皮を炙り、出汁でヅケにしてある。フリ柚子が効いている。
(4) 焼き白子、ウニ、エビ芋
まず白子を潰し、ウニと混ぜる。そっと食べてみれば、最初に艶っぽい白子の精がきて、ウニの甘みが追いかける。続いて今度は炊いてから揚げた海老芋にたっぷりかけてやる。
海老芋、焼白子とウニのソースがけである。するとどうだろう。白子の色気とウニの濃密なうま味が抱き合って丸くなり、海老芋の実直な甘さが、品良く浮き立ってくる。
この料理の主役は、海老芋だったのである。
「黒龍 垂れ口」。この酒の甘みを、白子やウニの濃さと合わせる。
北イタリア産の「Vitovska」。お出汁のようなミネラルのあるヴェネツィアの白ワイン。次のイイダコと山菜に合わせるのだという。
(5) ウルイ いいだこ、酢で炊いたウド、炒めたコゴミ、さいまきエビ、そら豆
皿が温められ、エビは人肌で甘い香りを放つ。イイダコは優しく炊かれ、ソラマメは歯ごたえを残した茹で加減で甘く、酢で炊かれたフキの塩梅が素晴らしい。さりげないながら、丁寧な仕事が光る盛り込みである。
2018.03.01(木)
文・撮影=マッキー牧元